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目に入った言葉を、無かったことにしたくて目を伏せた。
だけどもう遅い。先輩の方には、きっと既読がついている。
諦めたように目を開けた。
[色川]君が好きだ。いくら言っても取り合ってくれないから、こうして証拠を残しておきたい。
心臓の音が、ゆっくりと強くなった。
また一つ、小さなフキダシが増えた。
[色川]君が好きだよ
返事が欲しいと言われたって知らない。画面を閉じてしまおうと思った。
また一つ、先輩の言葉が届く。
[色川]USB、まだ返してもらっていないから、ラインに返事をするのが嫌ならその時に聞かせて。大事なデータも入っているから、直接返してほしい。
スマホをポケットに押し込んだ。何も考えたくなかった。
それでも、さっき見てしまったあの言葉が頭から離れない。先輩の掠れ気味の声も。
気を紛らわせたくて、必死に何か考え事を探す。
――そうだ、ドーナツは君に、って
あんな意味不明なラインをどうして送ったんだ。一緒にいたのにわざわざ訳のわからないことをラインで、と思って、あの時の事を思い出す。
『ミヒカは話しやすい』
違う、その前に、
『紅茶は、ミヒカさん?』
『ミヒカは紅茶の方が好きだから』
紅茶はミヒカさんに、ドーナツは俺に、ってことなのだろうか。そういえば、プレーンじゃなくてチョコだけだった。
――俺の好きな味。
硬く目を閉じて、深く呼吸をした。
違う。
電車に乗る間も家まで歩く間も、何に対してなのかわからなくなるまで、俺はその言葉を頭の中で繰り返した。
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