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「大野木が誰かに(けが)される前に、周りのやつらを全部消したい」  五條はまだ執念深く大野木に関することを呟いている。五條は背が高く顔が良く、頭もよい。うちの理工学部に通う大野木のために、レベルを落としてうちの大学を受験したというから、中々に嫌味な奴である。  家はグループ会社を経営している金持ちで、その上母親は元英国人という色素の薄いイケメンを世間は放っておかないが、本人は世間にほとんど関心を持たず、幼馴染の大野木 (たもつ)だけを一心に追い求めていた。 「お前の方がよっぽど人寄ってきてるだろ」  俺の話など聞いていないだろうと思っての呟きだったが、五條は少し顔を上げた。 「今日もいきなり『ハーフですか』って訊かれたよ。うちの母親は日本籍を取ってる。日本人だ。人種的な話がしたいなら、白人なのは母方の祖父だけで祖母は中国系、俺はほぼアジア人だ。人の名前を訊く前に人種を尋ねることが無礼だとわからない無知な人間がよく大学に入れたと思う。みんな消えてほしい」 「……それは普通に嫌だな」 「早く大野木に会いたい」  五條は長い溜息をついた。大野木は、やや背が低く、生まれも育ちも都内だが南国っぽいはっきりした目にきりっとした眉、そして健康的な肌の色をした、見た目の通り心身の健康な若者だ。おおらかすぎて少しずれているがとてもいいやつで、五條を通して知り合った俺とも仲良くしてくれている。 「俺は大野木しかいらない。本当は大野木を閉じ込めておきたいけど、俺は我慢してるんだ。大野木には優しくしたいから」  五條のうすら寒い言葉を聞きながらコーヒーをあおった。 「俺サークル室で会誌書くけど」  俺は次は授業を入れていない。サークル室で会誌の作業を進めようかと考えていた。 「この後大野木と会うから、行かない」 「そか、じゃあまた後でな」  俺はコーヒーの入っていた紙のカップを握り潰し、ごみ箱を目で探しながら立ち上がる。  眉を寄せて振り返ると、ちょっと失礼かなとは思ったが五條を指さした。 「五條、女の子は虫じゃないし、お互いに同意して人と人が触れあうのは別に穢れるようなことじゃないし、あと閉じ込めないって普通のことで、別に優しさでも何でもないからな」  五條はなぜかびっくりした顔をしていた。全くもって普通のことしか言っていないのだが。
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