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「……色川(いろかわ)先輩」  俺の側に立った人をゆっくり見上げた。  古着っぽいこじゃれた柄シャツ、その襟から覗くどことなく不健康そうな首筋。柔らかそうなくしゃっとした髪と、眼鏡と、その奥にある三白眼気味な切れ長の目。その目が光った。  ――爬虫類みたいだ。  この人の目を見ると時々そんな風に思う。  サブカルめいた容貌にそぐわず、どこか芝居がかった話し方をする。 「あーっ!」  ミヒカさんが大きい声を出した。 「玉本、紅茶買ってきて。ね?」  俺は眉尻を下げた。庇うつもりでついてくれた嘘だろうが、内容がまずい。  先輩の視線がミヒカさんに移る。面白がるような目をしていた。 「この忙しい時期に、今回の会誌を主導している玉本くんが君の紅茶を買いに行くの? ミヒカ、君はそんな人の使い方は一番嫌いじゃないか。君が飲む紅茶は、自分で買いに行くべきだ」  先輩は、薄くほほ笑んだ。 「ミヒカ、自分で行っておいで」  ミヒカさんは「うっ」という顔をした後、眉根を寄せて諦めたような溜息をついた。 「……色川さん、玉本にちょっかいかけるのやめてくださいよ。うちに必要な子なんだから、色川さんの気持ち悪いちょっかいに耐えかねて辞めたらどうすんですか。二年はポンコツしか残んないですよ」 「ポンコツは言い過ぎだ。眞下くんも五條くんもいいものを書くじゃないか」 「書けるだけじゃ組織が成り立たないのはわかるでしょ。うちで本当に一番大事なのは玉本みたいな子なんです」  先輩は聞いているのかいないのか、首を傾げてミヒカさんの手元を見る。 「ミヒカ、買い物には行く予定だったんだろう? 行って来たら?」  ミヒカさんは自分の手に握られていた財布に一瞬目をやってから、俺をしっかりと見た。 「すぐ、戻るから」  そうして、ミヒカさんは先輩の背後で手を合わせ、口だけで「ごめん」と言った。俺は大丈夫だと伝えたくてわずかに首を振り、「行ってらっしゃい」と告げた。  先輩が、振り返ってミヒカさんを見つめた。 「それとね、ミヒカ、僕は玉本くんをからかっているんじゃない。真面目に口説いているんだ」  ミヒカさんは先輩を無視して俺に視線を移す。 「ダッシュで行ってくる」  乱暴に閉じたドアの音の、余韻が消えるまで待ってから、先輩は俺の隣の椅子に腰かけた。長机を二つくっつけたテーブルの周りには、他にも椅子が並んでいるのに、当たり前のように隣に腰かける。
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