帰還

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帰還

美月は、「暗闇の国」の本当のことを話し、「光の国」の人たちの誤解を解きたくてたまらなくなりました。「暗闇の国」の悪口ばかり言う「光の国」の人でも、真実を知れば、改心し、反省するものだと思いました。 美月は、二つの世界の架け橋になり、誤解を解き、相違点を超え、理解し合えるような世の中が作りたいという使命感に駆られ、「暗闇の国」と「光の国」が手と手を取り合う夢を胸に、「光の国」へ出発した。美月は、自分が悟りを開いたと思い、得意な気分になっていました。 美月が「光の国」へ戻ってみると、父親は、涙を流し、最初歓迎しました。 「一体、どこに行っていたんだ⁉︎随分探したのじゃ!」 すると、美月は、得意げな顔をして、胸を張って言いました。 「暗闇の国だよ。お父さんが暗闇の国について言ったことは、全部違ったの!お父さんが言うような野蛮で過酷なところではなかったし、そもそも、そんなに暗くもない!月という天体が空に浮かんでいて、普通に、足元が見えるくらい明るいの…!」 ところが、美月が話し出すと、美月の父親は目の色を変えて、怒り出しました。 「俺の言いつけによく背いたな!許さないぞ!」 美月は、父親の憤慨した顔を見ても、少しも怯まずに話し続けました。 「…そして、その暗闇の国の空に浮かぶ「月」というものが私の名前の「美月」の「月」だって!お母さんは、知っていたよね、暗闇の国のこと⁉︎じゃなければ、どうして、その名前を…?」 美月がそう言い終わる前に、父親が怒鳴りました。 「暗闇は、光の敵じゃ!暗闇が一筋でも忍び込んでしまえば、光は滅びんじゃう!だから、暗闇の国のモノが光の国に踏み入れるのは、許せない!だから、あの女を終わらせたんじゃ!」 美月は、父親の言葉を聞いて、ショックを受けました。 「お父さんがお母さんを…?」 しかし、父親は、美月の質問に答える気はありませんでした。すぐに護衛隊を呼び、美月を牢屋へ入れてしまいました。 美月は、みんなの誤解を解こうと、鬼の首を取ったように、帰還した自分が、アホらしく思えてきました。「暗闇の国」を巡る真相を知っているのは、きっと、自分だけではないと思いました。その誤解を解き、平和な時代を導こうとしたのも、きっと、自分が初めてではないとも思いました。そして、初めて気づきました。真実を知っても、「光の国」の人の考えは、きっと変わりません。そもそも、真実が知りたいと望んでもいません。その根本的なことに気付きもしないで、偉そうにしていた自分が情けなくてたまらなくなりました。 実父に牢屋に入れられて、美月は、驚き、傷ついたが、それよりびっくりしたのは、牢屋が暗かったことです。 暗闇を一筋も入れまいと、魔法で強い光を放ち、国中をギラギラと光らせているというのに、その眩しい国の片隅に、暗い場所があったことを知り、美月は、おかしくて、吹き出しそうになりました。 「やっぱり、そうだ。「暗闇の国」には、光が存在すると同様に、どんなにその侵入を防ごうとジタバタしても、「光の国」には、暗闇は存在する。きっと、必死で暗闇を遠ざけようとするからこそ、はびこる暗闇もある。」 美月は、そう思いながら、「光の国」の暗い牢屋の中で、眠りました。
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