憧れ

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憧れ

昼夜問わず、太陽がギラギラと眩しく光る「光の国」には、一人の少女が住んでおりました。少女は、「美月」と言って、「光の国」の王様の大事な一人娘でした。 「光の国」の王様のお仕事は、暗闇が微塵も「光の国」の境内に忍び込まないように、魔法で強い光を放つことでした。王様の最愛の一人娘の美月がいつか父親の役目を継ぐことが当たり前のこととして、国中の人に期待されていました。 美月は、幼い頃に母親を病気で亡くし、父親と二人暮らしでした。小さい頃は、美月は父親と仲良く暮らせましたが、大きくなると、喧嘩ばかりするようになりました。 喧嘩する原因は、いつも同じでした。美月が、隣の「暗闇の国」に憧れ、行ってみたいと言うのを父親は、一向に聞き入れてくれません。 「暗闇の国の人は野蛮で、お化けや怪物が出没するような暗くて殺風景なところだぞ!絶対に言ってはならぬ!」 と美月の気持ちを端から否定するのでした。 しかし、美月は、父親の光を放つ役目を継ぐのは、嫌でした。そもそも、「光の国」に対し愛国心のような気持ちはいつまでも芽生えずに、居心地悪く感じました。国民が賞賛する常に魔法で天から降り注ぐ眩しい光を、美月は嫌いでした。眩しすぎて、美月が目を逸らさないと、目が痛くなり、涙が出て、目眩がすることすらありました。 「光の国」のイメージと同じように、派手で、元気な性格の人の多い「光の国」の国民とも、美月は馬が合わずに、幼い頃から浮いていました。 美月は、細やかな光で充分だと思いました。むしろ、一度暗闇の中で過ごしてみたいと思いました。周りが常にざわざわしているところより、静かで、落ち着いているところの方が自分には、合っているとも思いました。しかし、「光の国」には、美月の考え方に同意する者はいませんでした。 美月は、心細くて、故郷であるにもかかわらず、自分の居場所の存在しない土地で四六時中過ごさなければならなくて、苦痛でたまりませんでした。 美月は、幼い時に、母親が亡くなる前に、国の中の一番高い山に一緒に登り、一度「暗闇の国」まで見渡せたことがありました。派手に、ギラギラと眩しい光を放ち、美月の目を痛めつけ、外のものを遠ざける「光の国」とは違い、外から入ってくるものまで受け入れ、優しく包むような柔らかくて、ほんわりとした印象でした。 父親を始め、「光の国」の人は、みんな「暗闇の国」の悪口ばかりを口にします。しかし、美月は、どんな悪口を聞かされても、信じられずにいました。山頂から見たあの素敵な国は、そこまで野蛮で、悪い場所だとはどうしても思えませんでした。
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