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真実の夜
プロポーズから数日後、2人は新宿の区役所に婚姻届けを提出しに行った。
「今日という日にかんぱーい!」
43階の部屋から見える夜景は普段と変わらないのだけれど、婚姻届を出した直後という状況が特別感を演出する。
「このワインいくらするの?」
「30万くらいかな」
「そんな奮発しなくてもいいのに。私の馬鹿舌では30万円と3000円の違いすら分からないから」
グラスを傾け、ルビー色の液体を口の中で大事に転がす。
「ねぇ、私と結婚してくれた理由って何?」
「私って、今まで出会った数多くの女性よりも魅力があった?」
獲物を射貫くような鋭い瞳で光希を見つめる。
「何を言ってるんだ?今まで付き合った女性は2人しかいないよ」
女性経験がないと言ってしまうとちょっとした振る舞いで怪しまれてしまうため、交際人数は2人という設定にしていた。
「今日は記念すべき一日になるな」
酔いが回ってきたのか、口数が増える。
「たしかに。今日があなたにとって最期の一日だものね」
うっすらと笑みを浮かべる。
「どういうことだ?」
「文字通りあなたの人生は今日で最期なのよ。正確にはあと5分くらいかな」
「えっ!どういうことだ!」
体中が熱くなってきた。視界が徐々にかすんでいく。
「そのワインには毒薬を入れたのよ」
「うっ、くっ、苦しぃ……」
「ゆ、優里奈のことが、ほっ、本当に好きだからっ……一生守っていきたいからっ……婚姻届けを出したのに……」
絨毯の上に倒れしばらく小刻みに体をけいれんさせていたが、やがて動かなくなった。
優里奈は光希の正体を知っていた。
たまたま職場の先輩が光希と出会い系サイトで知り合い、危うく騙されそうになったのだ。
光希は次の獲物として優里奈を狙った。これはチャンスだと考えた優里奈は、策略に引っかかったふりをすることにした。
優里奈の狙いは数多くの女性を騙して手に入れた大量の財産。正確にはいくらあるのか知らないが、ゆうに1000万円は超えるはずだ。
「結婚詐欺師が騙されるなんて因果応報ね」
優里奈は絨毯に横たわる光希の死体を見下すように眺めると、思わず笑みがこぼれた。
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