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優里奈3
光希さんはどんな格好でくるのか?
私の服装はこれで良いのだろうか?
気合が入りすぎてしまい、目黒駅に30分以上早く到着してしまった。
行き交う人ごみの中を光希さんがいないか探してしまう。
時計を見る。15時37分。
おそらくまだ到着することはないだろう。
今日までの間ラインでは数回やり取りをしており、光希さんの趣味とか好きな映画とか、とにかくいろんなことを知ることができた。
メッセージでのやり取りをすることで、実際に会うまでの楽しみが増幅していくのを感じていた。
「お待たせしました優里奈さん」
ふいに後ろから声をかけられ、あっと声を出してしまう。
「光希さん、もう着いたんですね!」
突然の登場に驚く。黒いカットソーに茶色のデニムでまとめた光希さんは、目黒の街にしっかり溶け込んでいた。
光希さんの服装からはまったく気負っている感じがしない。
私だけがはりきりすぎているようで、少し恥ずかしくなった。
「私普段はスマホで映画見るので、こうやって映画館の大きいスクリーンで見るの久しぶりでした。やっぱり迫力ありますね」
光希さんのチョイスで、若年性認知症を題材としたヒューマン映画を見た。
そこそこ面白い内容だったが、こういう映画をチョイスするところに光希さんの性格がにじみ出ている気がする。
「光希さんはよく映画館に来られるんですか?」
「月3回くらいですよ。ただ映画は大学生のころから趣味で、昔はDVDを借りて何本も見たものです」
「これやりませんか?」
光希さんの提案で、近くにあったゲームセンターに入ることにした。
子供が遊ぶメダルゲームやレースゲーム、クレーンゲームまでさまざまな種類のゲームが置いてあった。
筐体にはクイズマジックアカデミーと装飾されている。
クイズが出題されて、正解数やかかったタイムによってポイントを獲得できるらしい。
やり方はよく分からないが、とにかくプレイしてみることにした。
「結構楽しいですね、これ」
4択クイズだけでなく、タッチパネルで答えるクイズやマイクに向かって叫ぶ形式の問題もあり、意外と楽しめる。
「でしょ。これ結構はまったんですよ。音ゲーとかクレーンゲームよりよっぽどやりこんだものです」
クイズが得意な方ではないが、何問かは答えることができた。
となりを見ると、光希さんが子供のような顔で画面に向かっていた。
映画館の外に出ると、すっかり日が沈んでいた。
建物の明かりが付いているため前が見えないほど暗くないが、新宿の駅前ほど明るすぎることもない。光と闇のコントラストが絶妙に大人の空間をつくりだしている。
10分ほど歩いて、シーフード料理店「メリーナイス」に到着した。
友達と来たのは1年以上前だったが、事前に場所を調べておいたためスムーズに到着することができた。
「かんぱ~い」
ワイングラスを合わせる。ピリッとした辛みとスモモのような酸味で舌がしびれる。
「あれから彼氏は見つかりましたか?」
「えっ、見つかってないです」
「意外だなぁ。優里奈さんなら何人もの男性からアプローチされると思うんだけど」
「そんなことないですよ。5、6人とラインを交換しましたが、連絡を送ってくれたのは光希さんだけでした」
「本当ですか!ラッキー!」
子供のような表情になる。
この人ならありかも。
時計に目をやると、間もなく21時になろうとしている。
もう2時間も経っていたのか。
時間を忘れるほど楽しいひと時が過ごせた。
「お会計は私が持ちますよ」
半分払いますよという私の声を振り切り、光希さんが二人分まとめて支払い店を出た。
「本当にいいんですか?」
「いいですよ。優里奈さんのおかげで楽しい時間が過ごせたんだし」
「ありがとうございます。ごちそうさまです」
「いえいえ。最寄り駅まで送りましょうか?」
あわよくばホテルまでと期待したが、それは無理そうだ。まあ、初めてのデートではそんなものだろう。
「3駅ほどなので大丈夫です」
初対面からがつがついくと引かれてしまうと思い、駅までの見送りも断ることにした。
「それでは、またの機会があれば」
「近いうちにぜひお会いしたいです」
「そういっていただけて光栄です」
心地よい余韻を残したまま、電車は祐天寺に到着した。
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