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光希3
「今日は本当にごめん。夕方から用事が入っちゃってここでお別れだけど、この埋め合わせは近いうちにさせて」
「ありがとう。こう君が一緒にいてくれるだけで楽しい」
到着した電車に乗り込む博美を見送ると、階段を上がり5番線ホームに向かう。
多分博美は楽勝だろう。
パニックになりやすいタイプだろうから、電話して母親ががんになったとまくしたてれば1000万円くらいは引っ張れる。
数日後にタイミングを見計らって電話しよう。
目黒駅に向かう電車の中で、博美の金を引き出す作戦を考える。
俺は結婚詐欺師だ。
今までに20人ほどの女性をカモにして、だまし取った総額は1億円を優に超える。もちろん、簡単に稼げるわけではない。
街コンや出会い系サイト、婚活パーティなどに毎日のように参加し、1000人以上の女性にアプローチしてきた。1000人以上にアプローチして、ひっかかるのは20人程度。確率にすると2%といったところだ。
それでも1人あたりの金額が大きいため、タワマンの43階に住んでも充分おつりがくる。
お金の引っ張り方はカモによって異なる。情に流されやすいタイプには、仕事でミスをして補填しないとクビになる。親孝行な女には、老人ホームに入居させたいから頭金を貸してほしい。レパートリーはいくらでもある。
デートやラインでのやり取りを通じて、どの作戦でいくらくらい引っ張れるかを判断し計画を立てる。
この後会う予定の優里奈は、大金こそもってなさそうだが、流されやすい性格なので様子を見つつお金を出させたい。
懐具合を正確に見抜き、なんだかんだ貢がせることができれば儲けものだ。
目黒駅に着くと、緑のワンピースを着た優里奈の後ろ姿が見つかった。
前回会った時より数段美人に見える。
今回のデートに相当気合を入れてきたのだろう。
テンプレ通りに相手の服装をほめつつ、映画館に向かう。
この映画を見るのは今月で5回目なので、ストーリーに関係しないような細かいシーンまで正確に覚えている。
俺の表情をのぞき見してくる女もいるから、うかつに眠れない。
頭の中では別の女と行くデートの計画を立てたり、どういうメッセージで誘うのが効果的かを考えたりして、時間を過ごした。
この後は偶然見つけたふりをしてゲーセンに立ち寄る。
ゲームに熱中させることで、相手の素の反応を引き出すのが狙いだ。
優里奈は音ゲーやシューティングといった派手なゲームは好まないだろう。なので、頭を使うクイズの対戦ゲームを選びプレイする。
クイズにはそこまで興味がないのだが、意外と熱中してしまう。隣を見ると、優里奈も楽しそうにしていた。
優里奈が案内してくれたレストランは、意外にもおしゃれな店構えをしていた。
テーブルについて優里奈と向かい合うと、心なしか緊張してしまう。
会話の中で優里奈を楽しませることを意識したが、気づいたら自分も楽しんでいた。
優里奈なら自分がペースを握れると思っていたし、彼女にも主導権を握ろうという意識はないのだろうが、いつの間にかペースを握られている。
あえてペースを握らせる時とはまた違った感覚だった。
店を出たのが21時過ぎ。
ホテルに誘ってもいい時間だが、初対面で誘うと警戒される可能性が高いので、自然な形で解散する。
都内でOLをしているということもあり、ある程度まとまった額の貯金は持っているだろう。
問題はそれをどう引き出すかである。
作戦を考える中で、彼女の全容をとらえきれていないことに気づいた。
まあじっくり様子を見ることにしよう。
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