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優里奈4
あれから何回かデートを重ねた。
デートを重ねるごとに光希さんのことを深く知れたような気がして、毎回会うのが楽しみだった。
おそらく光希さんも私に好意を持っているはずだ。
今日は残業しない。そう決めていつもの3倍気合を入れて仕事をこなす。
なぜなら、仕事が終わったら光希さんの家に行くからだ。
今まで何回かデートをしたが、お互いの家に行ったことはない。
待ち合わせ場所に新宿駅前を指定された。いったいどんなところに住んでいるのだろうか想像が掻き立てられる。
仕事を定時に仕上げ、お先に失礼しますと残っている同僚に声をかけて会社を出る。
時間が迫っていたので、家に帰らず直接新宿駅に向かう。
「こんばんは。お待たせしましたか?」
待ち合わせ時間の5分前だが、光希さんはすでに到着していた。
「いや、僕もついさっき到着したところです」
お互いスーツ姿で会うのは初めてだ。
「どこかでご飯食べていきますか?この近くにおすすめのフレンチレストランがあるので、案内しますよ」
「ぜひ行きましょう!」
シックな雰囲気のお店で夕食を済ませ、いよいよ光希さんの家に向かう。
数分ほど歩くと、高くそびえたつタワーマンションに到着した。
「えっ!ここが自宅ですか!」
ある程度家賃の高い部屋を想像してはいたが、まさかタワーマンションとは。
しかも光希さんの部屋は43階にあると聞いて再び驚いた。
広々とした庭園を抜け、カードキーをかざしてエントランスに入る。
「いつからここに住んでいるんですか?」
「昨年の春に越してきました」
再びカードキーを取り出し、エレベーター前のパネルにかざす。
「階段で行きますか」
思わず吹き出す。
「明日になってもたどり着かないですよ」
「停電があったら一巻の終わりですね」
お互いに顔を見合わせて笑いだす。
「ふかふかぁ」
案内されたソファに座ると体が深く沈み込み、思わず声が出てしまう。
「喜んでもらえてよかった」
ワイングラスとデキャンタをテーブルに置く。
「ここから見える景色、きれいですね」
「見慣れた景色だけど、優里奈さんと観ると特別なものになります」
口がうまい人だなと思ったが、悪い気はしなかった。
1時間ほど経っただろうか。
グラス3杯ほどしか飲んでいないが、酒に弱いのと緊張が相まって全身に酔いが回ってきた。
「ちょっと酔ってきました。横になりたい」
呂律はかろうじて回っている。
「そっか。じゃあ、隣の部屋にベッドがあるから行く?」
「その前にシャワー浴びさせて」
「優里奈さん。おはようございます」
遠くの方から声がした。
視界はかすんでおり、頭はまだ完全には起きていない。
30秒ほど時間をかけて状況を把握する。
「おはようございます」
ベッドから出ようとするが、何も身につけていないことを思い出し急に恥ずかしくなる。
「とりあえずこれでも着てください。慌てなくていいですよ」
「ありがとうございます」
「何か食べますか?」
温かいコーヒーを出してくれる。
「いえ、大丈夫です」
「そうですか。昨日は勢いであんなことをして、すみませんでした」
「謝らないでください。むしろこちらから誘ったようなものです。光希さんこそ迷惑じゃありませんでした?」
一夜明けて冷静になると、我ながら大胆な行動をしたものだと感心する。
「とんでもない。楽しい夜を過ごさせてくれてありがとうございました」
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