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感情眼鏡
男は眼鏡を買いに来ていた。
お店にはさまざまな眼鏡がずらりと並んでいる。
今までかけていた丸眼鏡を止め、四角いフレームの眼鏡にしようと考えていた。
眼鏡田という変わった名前のネームプレートをつけた店員に声をかられるが、男はめんどくさく曖昧な返事をした。
店員は顔に張り付けた笑顔でこういう。
「本日限りの、特別な、世界に一本しかない眼鏡があるのですがそちらはどうでしょうか?」
そんな高価そうなものをなぜ自分に進めてきたのか、男は謎だった。
服装も白のワイシャツにスラックスで、金持ちそうに見える外見ではない。
そして実際に金持ちではなく、中流家庭の夫だ。
男は買う気はさらさらないが、どんな眼鏡なのか見てみたいと思い、店員に見せてくださいと頼む。
「こちらになります」
店員が差し出したのは、お笑い芸人がかけそうな、虹色のフレームの眼鏡だった。
別段珍しそうには見えない。何か特別な素材でも使われているのだろうか。男は考える。
店員が値段を言うが、普通の眼鏡と変わらない値段だった。
「よかったら、おかけになってみてください」
店員に言われて男がかけてみると、店員の頭の上に虹色のもやがかかった。
目を疑い、眼鏡をはずしてみる。もやはなくなる。
「どうでしょうか?その眼鏡は人の感情が見える眼鏡です」
そういい色と感情を男に話す。
感情のもやが見えなくなったら返品して良く、全額ではないが半額は返金してくれるとのことで男は購入した。
男は妻の気持ちがわからず悩んでいた。この眼鏡があればだいぶ楽になるのではないか、そう考えたからだ。
それから男は妻の言葉とは反対の感情も分かり、上手くやっていけるようになった。
しかし三か月くらい経ったある日、感情のもやが見えなくなってしまった。
男は急いで眼鏡店に行き返金してもらおうと思った。
が、眼鏡田という店員は存在しないと言われ、「そんなはずはない!」と声を張り上げ言う。
店員になだめられたので、眼鏡を見せこの店で買ったものでとあの店員とのやり取りを話す。
少々お待ちくださいと言われ待つと、戻ってきた店員に
「すみませんが、お客様。この眼鏡は当店のものではございません」
と説明を足され眼鏡だけを返された。
男は何がなんだか分からず、とぼとぼと家路につく。
妻の感情が読めないと、またいたたまれない空気の中過ごさなければならないのか、と思うとため息がこぼれた。
ところが眼鏡をかけていた時の感覚や勘がことごとく的中し、夫婦は仲睦まじく過ごせるようになった。
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