(b[land)mark]

1/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 近所の中学校指定のセーラー服を着たその少女はきっと思春期真只中で、だから大人の女性のような背伸びをしてみたくて、けれどそれを正しく手に入れるためのお金がなかった――どうせそんなところだろう。どこか怯えた様子で少女がポケットに一本の口紅をしまい込むのを見ながら、私はそんなことを考えていた。  少女が店を後にしてから、彼女が盗んだ口紅のテスターを自らの手の甲にこすりつけてみる。安物の不透明絵の具のように赤くちっとも品のないその色が、地味で貧相で頼りなげなあの少女に似合うはずはない。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!