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嘘月
私は実はかぐや姫なんだよ
彼女の口癖に周りは引きまくっていた。彼女には最後まで友人はできなかった。
高3の半ばに、彼女は転校してきた。何もこの時期にと皆は思う。僕ももちろんその一人だった。クラスの大半は大学進学で色めき立っていて正直彼女に構っている余裕はない。少数の専門学校&フリー組ははじめは面白そうだと構ってはいたが、かぐや姫うんたらを冗談だと笑えば本気で歯向かってくる彼女に、次第に距離を置くようになっていた。
一通り学校行事を終える頃には、彼女はひとりぼっちだった。
僕はそんな彼女になんの言葉を掛けるでもなく庇うでもなく、ただ同じクラスの空気としてそこにいた。僕はだって、ただの。
卒業式の日、式典を終えて講堂から教室へと戻るさなかに、背中から声を掛けられた。
あなたは本当はあなたじゃないくせにそうやってずっと嘘をついて生きていくのね。
彼女にはバレていた。
僕は竹取爺さんです。そうだ。僕は一生嘘をつき続けるさ。僕は若者の格好をして大学へ行き、真新しいスーツを着て就職をし、好青年のふりをして結婚をするんだ。いいパパになって、ただのおじいちゃんになって。…おじいちゃん。
嘘が嘘でなくなったら、僕はどうなるんだろう。
その晩、僕を責めるかのように真っ赤に燃えた月。彼女は月へ帰って行った。
おしまい
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