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解らん
「おたく、何百面相してるん?」
清白過ぎる眼で見られたら、途端に羞恥を覚えた。
「アンタのこと、吸い尽くしてまうか考えてたんや」
平然を装って言うたつもりやったけど、俺は顔を背けた。
「やっぱり足りんかったんやんけ」
憐れみの声の後、パサッと椋実色の上着が目の端に映り出し、シュルと襟締もその上に乗っかった。
「場所どこ? 一緒か別か言うて」
男はもはや白の開襟シャツに手を掛けとった。
「……何しとんの?」
「吸い尽くす言うてたから準備しようかと思って」
ほら、どこや? と男は優しく見守ってきよる。
「アンタ、アホちゃう? 吸い尽くすってこと
は死ぬいうことやで?」
俺は声を張り上げた。
でも、男は変わらない。
「それでええよ、おたくが満たされるなら本望や」
男は口角を上げて閉眼した。
突如、胸が締め付けられてブワッと血が勢いよく流れよったのを感じた。
熱くて苦しいのと気持ちええので訳が解らん。
只、男を死なせるもんかと腹は据えた。
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