盈月の物怪

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盈月の物怪

 盈月(えいげつ)煌々(こうこう)と輝く(かたわ)ら、濃藍(こいあい)が広がる空を飛行する。 時は子二つ(ねふたつ)。 良い子は眠りに()かなあかんねんで。  俺は(そそ)りたつ建物の中に負けじと閃々(せんせん)とする星に溜め息を吐き、少々低い建物に降りる。 下を見ると、列を()す車の脇を愚かな人間が(まば)らに通っていくのが見えた。 「()の街はまだ眠らんのか」 そないな独りごちをしても誰も答えてくれへんから、時は粛々(しゅくしゅく)と流れていく。  「さぁ、腹拵(はらごしら)えや」 気力を(ふる)い立たせ、眼を閉じる。 パッと大きく開眼(かいがん)すると、先程(さきほど)よりも遠く広く見渡せるようになった。 徒歩で(まわ)っとると、(ここ)より低い建物の屋上に来た男を見つけてもうた。 (しばら)く様子を見続けたが、他には誰もけえへん。 それよりも男は入ってきたドアから離れ、俺の視界の中心にきよった。 弄月(ろうげつ)の様や。 黒檀(こくたん)襟締(えりじめ)を緩めると、白磁(はくじ)の首が(あら)わになった……俺は思わず息を飲む。  「今日の(えさ)はどえらい御馳走(ごちそう)になりそうやな」 俺は舌舐めずりをした後、外套(がいとう)を広げて飛ぶ。 男は生成色(きなりいろ)で紙の湯呑(ゆのみ)を手に壁に寄りかかって三角座(さんかくずわ)りをしとる。 時折(ときおり)濡羽色(ぬればいろ)の髪を上げて紙の湯呑に口を付け、物憂(ものう)いの表情を浮かべるものの、()ぐに(うつむ)いてしまう。 男は孤独を擬人化した様な奴に見えた。 確かに今宵(こよい)孤月(こげつ)の御様子。 そう言えば、孤独な奴の血は濃縮(のうしゅく)されてて(きわ)めて美味(びみ)やって誰かが言ってたな。 「益々(ますます)ええわ」 俺は(がら)にも無く鼻唄(はなうた)(さえず)り、男の元へと()(さん)じることにした。
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