やめたげて!

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やめたげて!

 パパは空の虫かごを眺めながら言った。 「でもやっぱり何の収穫もないのは、昆虫博士としてのプライドが傷つくなぁ。餌に掛かっていたさっきのカブトムシでも捕まえてくるかい?」  パパがあれをカブトムシ認定していたことに驚きを隠せない。  けど今問題なのはそこじゃない。 パパの昆虫博士としてのプライドなんてこの際ドブに投げ捨てるべきだ。    ママの二つ名が「氷の微笑」であることをなぜパパは知らないのだろうか。  小さいおっさんの関西弁を聞くとママの顔にひきつった微笑みが張り付く。  この微笑みから逃れられたおっさんはまだいない。  そう。ママは最強の小さいおっさんハンターなんだ。  ママに無用な殺生をさせないためにも、僕はやんわりと言った。 「パパ、生き物は最後まで責任もって飼わないといけないんだよ?」 パパはちょっと考えて首を横にふった。 「ちょっとかわいそうだな、やめておこう」 よかった。我が家の修羅場は回避された。  僕が胸を撫で下ろした瞬間、パパがパチンと手を叩いた。 「そうだ! さっきのクワガタをツガイで飼えばいいんじゃないか? それならかわいそうじゃないし、うまくいけば繁殖もできるぞ!」  僕は思わず「ワンプッシュで居なくなるスプレー おっさん用」をパパめがけて噴射した。    
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