怖い歯医者

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怖い歯医者

「ぐぐう」 営業マン水口は、激痛に顔をしかめた。今朝から歯が痛くてしかたないのだ。 薬屋で、痛み止めを買ったがまったくきかない。 キャンセルできない取引先から戻る途中、どうにも我慢できずに、歯医者に飛び込んだ。 受付には『本日の診療は午前のみです』 というプレートがおいてある。 今 14:00。 いてて。。 もう、終わってたのか。 そっと診察室を覗いてみると 歯科医らしき男性が 器具やら歯の型やらを触っていた。 「すみません。先生ですか。猛烈に歯がいたくて。 なんとか すぐに診ていただけないでしょうか」 「えーーと。。」 一瞬迷った風にみえたが 「いいですよ。この椅子にどうぞ」 と、快諾してくれた。 「では、口を開けてください」 白衣をはおり、手には小さな金づちのようなものをもっている。 「どこが痛いのかな。ここかな」 金づちで、叩く。ゴン! 「ギュエ!」 めちゃめちゃいたい。 「ああ。ここもいたいかなあ」 ゴン! 「グガ!」 しぬしぬしぬーー 「ああ。かなりひどい虫歯になってますねー。これはちょっと、削りましょうか」 歯科医は、ドリルをとりだした。ぎゅいーーんと、耳障りな音がする。 歯科医は歯を削りながら、 「あれ?。。。ま、いいか」 などと、不穏なことをいう。 しまった。はずれの医者だったきがする。 「大丈夫ですよ。たいしたミスじゃないですから。ふふふ。あ。しまった。削りすぎたかなあ。」 抗議しようにも口にドリルをつっこまれたままで、声をあげることもできない。 「カッカへ。。」 「ああ、しゃべらないで。舌に穴あきますよ」 マスクのうえで、キラリとめが光る。 「痛いのまぎらわすのに、世間話でもしますか。えっと、お客さん、近所の方ですか。わたしはねえ、中学の途中まで、G市にいたんですよ。」 G市は、水口の出身地でもあった。 「ずいぶん、ひどいいじめにあいましてね。いつか、仕返しすることだけを目的に生きてきました。あっ。また、まちがえた」 (この歯医者、たしか『柴田歯科』って看板でてた。 あれ、あいつ。おれたちがいじめて引っ越していったやつ。あいつ、なんて名前だっけ。 。。。バッタ。バッタって、よんでた。。あいつた確か、柴田って、名前だった。) 「ぐああ」 無理やり身体をおこそうと決意したとき、 床全体が、ブルブルと、ふるえた。 「ああ、すみません。隣で工事してまして。時々、振動がつたわるんですよねー。これぐらいなら大丈夫ですけど、地震とか今きたら、怖いですよねー。ひひひ。」 「ほうぷひゃめへー(もう、やめてー)」 恐怖のあまり気絶してしまった。 。。。 そのまま眠ってしまったのだろうか。。 恐ろしい夢をみた。 中学時代のバッタがのこぎりをもって追いかけてくる。 「うわあ。たすけてくれー」 叫んで 飛び起きると 真っ暗だった。 暗闇のなか、めを凝らすと 治療器具がキラリと光ってみえる。 え?ここは歯医者? 歯のいたみはきえている。 時計をみると、21:00 随分ながい間 気絶していたのか。 取りあえず 立ち上がろうとするが 立ち上がれない。 身体が椅子に縛り付けられているのだ。 「うう。バッタの復讐か。。」 無理やり抜け出そうと身をよじっていると 扉があいて、 女が顔をのぞかせた。 水口の顔をみて つかつかと近寄る。 「あなた、泥棒でしょ。もうすぐ、警察のひとくるからね。盗んだもの返しなさいよ。」 「え?俺?泥棒じゃない。患者だよ。さっき虫歯を治してもらったんだ」 「ウソつき。私、あんたなんか治療したことないわよ」 「いや。男の先生が。。」 「うちには歯科医は私しかいません!」 「なんだって?じゃあ、おれを治療した男はだれだよ」 「知らないわよ。そんなことより早く返して。鈴木のおばあちゃんから預かった金歯6個!」 (なんてこった。じゃあ、俺を治療したのは、歯医者じゃなく泥棒?同級生のバッタじゃなくて、ただのどろぼうだったのか。) よかったー。 無免許の泥棒に治療されるのと 復讐鬼に治療されるのと どっちがましでしょうね。
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