17人が本棚に入れています
本棚に追加
なぜ俺だけ辛い記憶を背負っていなければいけないのか。水葉は本当にこのまま俺を思い出さないまま、過ごしていくのだろうか……当初の関係性に、俺たちは戻ることが出来ないのだろうか。
俺の中で、一か月前から時間は止まっているのに世界はそれでも動き続けていく。今こうして入り込んでくる柔い風のように……それは静かで残酷なものに思えた。
「友也くん……?」
「えっ……あぁそうだな。
まあ燕に聞かないと分かんないけど、きっと覚えてるんじゃないか。ちゃんとさ……そうであって欲しい気がする」
「……すいません、何か思い出させちゃいましたか? これ、使ってください」
白いレースのハンカチが俺の前に差し出された。
「あれっ……ごめん大丈夫」
俺は慌てて顔を背け腕で拭う。すると「覚えてますか……?」と水葉の落ち着いた声色が聞こえた。
「ん……? 何が?」
「最初、お話しした時の事です」
「あぁ覚えてるよ。あん時は、急に変なこと言って悪かったな」
「いえ、いいんです。事情は分かりましたしね、ふふ」
最初のコメントを投稿しよう!