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前編【嘘と忘却】
四月一日。エイプリルフール。世間では嘘をついて良い日、なんて認知されているけど、俺は特別意識したことはない。
そんな俺は、つきたくもない大きな嘘をつくことになった。奇しくも、その日は四月一日だったーー
病室のベッドで上半身を起こし窓を眺める水葉は、その華奢な手を口元に当て微笑する。
俺が大学の授業中に、炭酸だと分からず振って開けてしまい、中身が噴き出した惨事を話したからだ。
「はぁ……笑い事じゃないぞ。ほんと大変だったんだ」
「そうですよね、すいません。でも私も似たような経験あった気がします。子供の頃に」
「え……なんだよ、俺は子供かい」
「ふふっどーでしょうね、子供っぽいところがあるかもですよ、聞いてると」
そう言って、いつものように優しげな目つきを俺に向けてきた。その細めた目は前と変わらない。笑う時に唇を少し噛む仕草も変わらない。そう、何も変わっていない……でも、変わってしまったものがたった一つだけ。それはあまりにも大きすぎるものだった。可能なら嘘であって欲しい信じたくない、受け入れたく無い事実。
すると自然に表情が暗くなったらしい。
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