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地方の中には、たとえ市街であろうとも過疎化が進行するような恐ろしい地域だってある。
そんな寂れた都市にたったひとつだけ存在するラブホテルの一室で、友岡達央は全裸でベッドに横たわっていた。
直立したまま倒れこんだような格好で、死んだ目で天井を仰いでいる。
「おい・・・もっと色っぽい顔しろや。んな生気のない目ぇした相手に欲情なんてしねえんだよ」
達央の体を膝立ちで跨ぐようにして見下ろすクソ忌々しいこの男・松永瑛人は、鍛え上げられたツヤツヤの肉体に照明を反射させつつ、目元をピクピクと引きつらせていた。
互いに全裸でスタンバイOKの状態なのに、どちらの股間も全くスタンバイできていない。
達央は舌打ちをする。
「てめえの股間を勃たせてやる義理は俺にはねえ。おら、ほぐしてあっから勝手に勃たせてさっさと突っ込め」
「ああァ?!こっちだってなあ、お前のツラ拝むまでは元気ビンビンだったんだ。萎えさせといて何だその言い草はァ?!!」
「あのさあ。二人とも仲良くしてよ〜」
「「類っ!!!」」
同じ一室のソファで、神庭類は呆れたようにため息をついていた。
そうだ、俺はこんな柄の悪い弁護士相手ではなく、あんたに抱かれにきたんだよーーー。
ーーーー時は遡る。
日本で最も過疎化が深刻な地域。そこにポツンと存在する寺の住職である達央は、親から引き継いだ檀家のために読経して回る日々を送っていた。
寺の修行なんて人生で一度もしたことはないから、適当にそれっぽいセリフを自分が出せる低音ボイスでつらつらと唱えているだけである。
登場シーンや木魚の叩き方は、知り合いの葬式に出た時に見た坊さんのスタイルをコピーした。宗派は知らない。
茶髪のロン毛、おまけにピアスまでつけているチャラくさい坊主ができあがったが、もともと顔だけは整っていたので、檀家の婆さんどもに受けに受け、半年も経つ頃にはアイドル的な人気を誇るまでに成長した。
他宗派の婆さんどもを寝返らせまくって、一気にファンも急増した。
会社員だった時は使えないポンコツとして馬車馬のように働いてきたが、気ままに暮らせる住職業はかなり性に合っていて、ぶっちゃけ一生続けようと思っている。実入りもかなり良い。
そんな達央にも、悩みが全くないわけではなかった。
住職だからというわけではないが、ゲイだった達央は、夜の相手を探すのに非常に苦労していたのである。
いくらスマホにマッチングアプリをダウンロードしたところで、マッチングなどできるはずもない。
なにせ、ここには二回り、いやそれ以上に歳を喰った爺さんしかいない。マッチングされても困るのである。
仕方なく電車を乗り継いで、一番近い都市部でようやく見つけたゲイバーに通うようになり、達央はそこで運命の出会いをした。
神庭類と名乗ったその男は、保険会社のセールスマンで、この地域に配属されたのだという。
長身で引き締まった体。ディズニーに出てくるような王子然とした笑顔。口元から見える爽やかな白い歯。
全てが達央のドストライクだった。さらに幸運だったのは、夜の相性が抜群に良いということである。
初めて類に抱かれた夜、達央は連続で五回も達した。
そのように感じていたのは類も同じだったようで、
「こんなに具合のいいナカは初めてだよ」
汗を滴らせながらうっとりと微笑む類。
こうして二人の関係は始まり、毎週金曜の夜はこうやって会って抱き合うようになった。
・・・のだが。
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