【身を捧げる】新名 真守(あたな まもる)

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[一九四六年八月二十五日] 目が覚めると僕は鎖で繋がれ、牢の中に閉じ込められていた。牢には窓がなく、陽の光が入ってこないため今の時間が分からない。 僕しか玲子ちゃんと親交がない以上、僕が真っ先に疑われることは分かっていた。僕がこの先どうなるかは想像がつく。 僕はこれから訪れるものに恐怖する中、震えながらも彼女の無事を願った。村を出るだけじゃ駄目だ。戻って来ないように村のことなんて忘れて欲しい。 どれくらい時間が経っただろうか。突然部屋の扉が開き、村の大人たちがぞろぞろと格子越しに集まってくる。 先頭には祖父である村長がいて、その脇には苦しそうな顔をした父さんと泣き出してしまっている母さんの姿があった。 「白い髪に赤い瞳……」 「鬼だ、鬼になりよった」 一緒に部屋に来ていた大人たちが、僕の何かに対して恐れ戦くようにざわつく。しかし村長が手を挙げると、すぐに静まりかえった。 「何故拘束されているか心当たりはあるか」 僕は村長の問いに応じずに黙って俯く。 「つい先程、古賀さんのところが揃って村から出て行った。ここ数日元気がない娘さんを心配して、連れて出ることにしたらしい」 そうか、彼女たちは無事に村を出られたのか。良かった、本当に良かった。思わず出てしまう笑みを見られないように隠す。 「娘さんと関わりのある者なんて、お前しかいまい。儂らのしていた話を盗み聞いて、娘さんが村に残らないようにしたな?」 尚も黙ったまま反応しない僕に、村長は溜め息を一つ吐く。 「話を聞いていたなら分かるだろうが、このままでは贄となる者がいない。 そうなると、お前が責任を持って代わりに贄となる他あるまい」 僕と目を合わせようと村長が屈み、こちらを覗き込んでくる。 「儀式は八日後に行う。それまで牢の中で自分のしでかしたことを後悔して過ごせ」 村長はそれだけ言うと、部屋から出て行った。 覚悟していたさ、彼女のために死ねるのなら本望だと。それでもこれから死ぬのだと思うと、やっぱり怖くて仕方なくて、僕は静かに涙を流した。 どうせこんな村なんてすぐに廃れて滅ぶだろう。 それまででいい。村のことなんて忘れてどうか幸せに。すぐに再会しないことを祈ってるよ。 さよなら、玲子ちゃん……
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