【女性の懐古】古賀 玲子(こが れいこ)

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それから今日に至るまで、私は一度も村に訪れていない。何故かは分からないけど、最近まで私は村のことなんて覚えてなくて、不意にそういえばといった感じで思い出したのである。 昔のことを思い出しながら足を進めていると、ようやく視界が開けて村が見えてきた。村には一人も人がおらず、ただ荒廃した家屋がぽつぽつと立ち並ぶだけのどこか不気味な感じがする寂れた景色が広がっている。発芽村は私が思い出した頃には既に廃村となっていたのである。 廃村になった今、ここに彼はいない。それを知っていて何故ここを訪れようと思ったのかは、私にも分からない。 誰もいない村の中をただ一人で昔を懐かしみながら見てまわる。 私の住んでいた家、子供たちの遊んでいた広場、村人の集まる集会所、そして彼との待ち合わせ場所に利用していた井戸…… 井戸の前まで来ると、彼が井戸の縁に座ってあの頃のように微笑んで迎えてくれている気がして、つい笑ってしまう。いい歳して、なんて痛い妄想をしているのだろうか、恥ずかしい。 ただ、こうやって村に訪れて懐かしい場所を眺めて、私が村に来ようと思い立った理由が少し分かった気がする。 私が昔抱いていた感情が本当に恋だったのか、或いは依存からくる好意だったのかを、ここに来て懐古することで確認したかったのかもしれない。 自分の中で踏ん切りをつけるために……
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