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[一九四六年八月十七日]
唐突な引っ越しの話からというもの、僕は玲子ちゃんと最後の思い出作りをするために、四六時中一緒に遊んでいた。
今日も夕暮れを過ぎて少し暗くなり始めるまで遊びまわり、彼女を家に送り届けてから自分の家に帰った。
自分の部屋に戻るために廊下を歩いていると、居間の方から複数人の声が聞こえてくる。大人たちが話し合っているのだろうか。僕の祖父が村長だということもあり、家の居間は集会所でも話せないようなことを内密に話し合うために利用されることが稀にある。
何の話をしているのか気になって、好奇心に負けて襖に耳を当てて会話を盗み聞いた。
「古賀さんところ近々引っ越すそうだが、大丈夫なのか? これでは儀式の贄を用意できんぞ」
「大丈夫だ、ついさっき聞いた話だと、父親だけ移住して母親と娘は残るそうだ」
「そうか、ならば安心か」
「この際父親は諦めるしかあるまい」
「元より贄は数を必要とせん」
「娘を贄とし、神隠しとして処理するのが良かろう」
「娘を探すために村に残ってくれたら次の贄にもできよう」
村のために必要なことだとか他にもいろいろと言っていたけど、それから先の話は聞かなかった。僕はばれないように急いで部屋に戻り、扉を背に座り込み、いつの間にか荒くなっていた呼吸を整える。
訳が分からなかった。いつも気さくに挨拶してくれる大人たちが、揃いも揃って玲子ちゃんに何かをしようと企んでいる。話の感じからしてそれが非人道的な内容であることはよく分かった。そんな話をいつもとはまるで別人のような冷たい声で話し合う大人たちに、異様な恐ろしさを感じる。
まず最初に彼女やその両親に伝えることを考えたけど、普段の大人たちの様子や儀式の贄という突拍子もない内容じゃ、いくら僕の言葉だとしても信じてはくれないだろう。どうにかして村から逃がす方法はないか、それだけを延々と考えた。
そして一つの策を思いついた。
村の他の子たちとは打ち解けてないことから考えるに、自惚れでなけれぼ彼女が村に残る理由は、仲良くなった僕と別れたくないからだろう。彼女の母親は、娘のために村に残るだけで、父親が町に移住する以上母親が村に残る理由はそれ以外には存在しないと思う。それなら彼女に僕が嫌われてしまえば、村に残らず家族全員で村から出てくれるのではないだろうか。
どれだけ考えてもこの策以上の方法は僕には思いつかない。彼女を悲しませるのも嫌われるのも嫌だけど、彼女たちを助けるためだと覚悟を決めた。
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