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【女性の懐古】古賀 玲子(こが れいこ)
[一九六六年九月二日]
バスから降りて、長時間窮屈な車内にいたことで凝り固まった体を解すようにぐっと伸ばす。それから周りに立ち並ぶ木々を眺め、整備があまりされていない道をゆっくりと私は歩き始めた。聴こえてくるのは葉の擦れる音や鳥の囀りくらいしか存在しない静かな世界。
懐かしい道。
もう二十年は経つというのにほとんど変わらない道中の景色を眺め、昔の記憶に思いを馳せる。
私が向かっているのは『発芽村』と呼ばれる小さな村落。戦争中に疎開先として家族揃って移り住み、三年間という子供だった私にとっては長く感じられた時を過ごした思い出の地である。
村に移住して来た私たちは、事情を知っている大人たちに優しく迎え入れて貰えた。今思うと、そこまで手厚くもてなさなくてもと感じるくらいの歓迎ぶりだった。
だけど子供たちは違った。
彼らにとって私は、おそらく初めて村の外から来た子で、村の子供で構成された組織において私は部外者でしかなかった。私は子供たちから遠巻きにされていたのである。
最初は子供たちと仲良くなろうと頑張っていた。けれど、その度に見てしまう子供たちの嫌そうな顔、渋々と加えられた遊びのまるで異物が混じったような空気感に、私は耐えられなかった。
数日もせずに仲良くなることを諦めてしまった私は、子供たちの遊んでいる姿を座り込んでただ遠目に眺めるようになった。
聞こえてくる子供たちの楽しそうな笑い声に、なんだか惨めな気分になって、どうして私は仲間に入れて貰えないのだろうかと落ち込み、塞ぎ込んで静かに啜り泣いていた。
そんなある日、いつものように座り込んで子供たちの遊んでいる光景を眺める私に、手を差し伸べてくれる男の子が現れた。
なんでも、彼はこれまで病気で寝込んでいたらしく、新しく村に来た子がいると聞いてどんな子なのか楽しみにしていたらしい。
彼は私の手を取ると、こんなところで座ってないで遊ぼうと私を引っ張り起こして誘ってくれた。私はそれに頷くことができなかった。
どうせ彼も村の子供たちと同じでその内嫌そうな顔をして、私を遠ざけるのだと決めつけたのである。
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