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「そこの2人、いつの間に仲良くなったの?」
突然背後から降ってきた声にはっとした。
クラスメートでラグビー部マネージャーの沢水真実さんが立っていた。
「頼、ナンパしちゃダメだよ。可愛いからって」
大げさに横からわたしを抱き締めると、形のよい唇を歪ませた。
「石坂さんは大事な彼氏がいるんだから」
「そんな、違うの! 今はわたしの方から――」
戸惑って体を無理やり剥がすと、真実さんは意地悪く笑った。
「へぇ、そうなの? じゃあ誠はどう思うかな」
「別に、そんな意味じゃ――」
直感的に察した。
真実さんはわたしの彼氏の誠くんが好きなんだ。
困っていると、ずっと黙っていた石田くんが口を開いた。
「俺たち、付き合い長いから。実は親戚」
「え?」
真実さんは目を見開いた。
「嘘でしょ?」
「マジ。親の従兄弟の子なんで遠いけど」
石田くんは平然と嘘を言ってのけた。内緒だけどと補足すると、いかにも「昔馴染みの友人」といったふうにわたしと自分を指差した。
さらりと吐かれた嘘は、私を守る強い壁になった。
真実さんの唇は隙間をつくったけれど、確認する方法がなくて諦めたようだった。
「へぇ、知らなかった。初耳!」
捨て台詞を残しさっさと机に戻っていくのを見て、わたしはほっとした。
「適当なこと言ってすみません」
「ううん、こちらこそ助けてくれてありがとう」
仲を冷やかされても否定するだけでよかったのに。
そう言いかけたところで、始業のチャイムが鳴った。眠たそうな顔に戻った石田くんは、英語の教科書を広げた。
「俺の名前、頼みと書いて『ライ(嘘)』なんで」
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