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「わ、どうしたの。髪ボサボサだし日焼けしてるし」 映画館で待ち合わせた誠くんはわたしを見ると、端整な顔を崩して驚いた。 「ひかり、次はちゃんと綺麗にしてきて」 「え」 改めて感情が冷めていくのが自分でも分かった。 誠くんは当然かのように、あっさりと言った。 「実は来週、テニス部の友達とダブルデートの約束しちゃったんだよね。だから今日以上におしゃれしてきて」 「今日以上に……」 「もし服がないなら俺が買ってあげる。貯金あるし」 得意気に笑う誠くんに、我慢してきた感情が爆発した。 「ごめん、別れよう」 「えっ」 目を見開いた誠くんを指差して、一気に言い放った。 「わたしのこと何だと思ってるの? 飾り? 着せ替え人形? いくらだとしても、あんたみたいなデリカシーのない奴とは大金積まれても付き合いたくない」 初めて彼氏に吐いた、本当の本当。 だけど、わたしはまだ言い足りなかった。 「中学で部活辞めたって話も聞いた! わざと人に怪我させるなんて最低!」 誠くんはわたしの肩に手を置いて、早口で言った。 「待てよ、服については謝るから! ほんとごめん! だけど部活の件は誰から聞いた?」 長い睫毛が、せわしなく上下した。 「石田か? 石田が言いふらしたのか? 同じクラスだもんな。ひかりは俺よりあいつを信用するのか?」 わたしは思いきり誠くんの両手を振り払った。 「違う。石田くんはこんなこと言わない」 「なら誰が? あれはただの事故で――」 「自分でネットで探してみたら?」 許しを乞うようにわたしを見る目は、もはやイケメンでも何でもなかった。 「嘘付かないで。人を傷付けた『事実』は、消えない」 泣きそうな誠くんを映画館に残して、わたしはさっさと外に出た。 自分のために嘘を付く人と、他人のために嘘を付く人。 わたしは、わたしを大切にしてくれる人を知っている。
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