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体育の授業が終わり、クラスメートと後片付けに取り掛かっていたときのこと。 軽い物にはみんな群がるのに、重い道具など誰も運ぼうとしない。 私はぽつんと残っていたカラーコーンが可哀想になって、仕方なく拾いに行った。 コーンを持ち上げるとずっしりと重く、手から滑り落ちそうになる。 これを倉庫まで……絶望的な気持ちで体の向きを変えると、突然手の中が軽くなった。 逆光で顔が見えずとも、これほど大きな人影は一人しかいない。 筋肉隆々のラグビー部員・石田(らい)くんはわたしが持っていたコーンをむんずと掴むと、軽々と左肩に担いだ。 呆然としていたわたしは、何を言うべきかをようやく思い出した。 「あっ、ありがとう!」 石田くんは何も言わなかった。 振り返ることなく、どんどん歩いていってしまった。 更衣室から教室に戻ると、わたしはバッグからミルクティーのペットボトルとチョコビスケットを取り出した。 束の間の休み時間を満喫していると、すぐに石田くんも大きな体を揺らして戻ってきた。 わたしは石坂、彼は石田。出席番号が一つ違いで後ろの席だったから、思い切って声を掛けた。 「あの、さっきはありがとう。もしよかったら、これ」 チョコビスケットの個包装を2個差し出すと、巣穴で眠るハムスターのような細目が、カッと開いた。 「……いいの?」 聞きながらすでに袋を開けている。これが記念すべき初めての会話。わたしが頷いた瞬間にはもう、夢中になって食べていた。 おやつを食らうハムスターの食欲に呆れながら、体重100キロと噂される石田くんを観察した。 肩幅が広くて怖かったけれど、よく見ると顔は優しい。 こんがりと日焼けした肌に、きりっとした眉。とろんとした一重瞼の奥で、瞳がキラキラ輝いていた。
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