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球技場のスタンドは観客がまばらだった。
こんな格好で来たことを後悔しても、もう遅い。
悪目立ちするのは覚悟の上で、日陰の端のベンチに腰を下ろした。
初めて見るラグビーは、何もかもが迫力に満ちていた。
体と体がぶつかり合う激しい音。
テンポよく流れるパス回し。
全力で押し合うライン際の攻防。
ルールも用語も知らない。
それなのに、血が騒ぎ胸が躍った。
「石坂さん?」
聞き覚えのある声が背後の通路から聞こえた。
「真実さん?」
高校名が入ったジャージに身を包んだ真実さんが、クーラーボックスを手に後ろの通路を歩いていた。
「何で来てるの」
激しく動揺しているのが分かる。一緒にいた後輩にボックスを押し付けると、わたしの席に走ってきた。
「もしかして、冷やかし?」
こんなとき、何て言ったらいいんだろう。教室で聞いた陰口が脳裏に蘇る。言葉を濁すのも違う気がする。わたしはまともに目線を合わせられないまま、正直に言った。
「実は偶然近くを通り掛かっただけなの。でも面白くて」
真実さんのポニーテールが揺れた。そういうことじゃない、と震える唇が伝えている。
「今日は休日じゃん! 誠と会わなかったの――?」
誠、なんて呼び捨てにしたことないのに。
真実さんは、わたしより近い距離にいる。
誠くんとも、石田くんとも。
細身の選手がボールを奪い、歓声が上がった。
しかし一気にトライを決めることはできない。
相手選手のタックルを受け、倒れる。
「これから一緒に映画。その前にここに来たの」
わたしは恐る恐る目線を上げた。
見渡す限りの青空。
真実さんはマジか、と呆れたように笑った。
「石坂さんは、何も知らなすぎる」
「えっ――」
「頼は中学でラグビーを諦めかけた。誠のせいで」
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