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5.
生暖かい風が、日差しに映える青い芝を揺らしていた。
真実さんは仕事を後輩に預け、わたしの隣に座った。
「わたしたち、同じ中学だったんだ」
静かな声が、ぽつりぽつりと真実を語り出す。
「父親がコーチだった縁で、2人をそばでよく見てた。誠も評判のBKだったけど、全国的に注目されてた頼に嫉妬したんだって。それで練習中に反則のタックルをして、靭帯の大怪我をさせた」
「そんな――」
わたしは悲鳴をぐっと堪えた。途中で辞めた、と言った誠くんの表情を思い出した。
「でも石田くんは『全然平気』って」
「バカ、そんなの嘘に決まってんじゃん」
真実さんはにべもなく言った。
「あのリハビリ期間がなければ高校日本代表だって目指せた。わたしは誠が憎い。石坂さんと付き合ってるのだって、石坂さんが従順で都合がいいだけ。イケメンだけど、人の不幸を喜ぶ奴が雑誌モデルで成功するはずがない」
真実さんはポケットからスマホを取り出した。「危険プレー集 少年編」と書かれた動画投稿サイトの動画を再生した。
さっと血の気が引いた。
今より幼い誠くんが、ジャンプしてボールキャッチした石田くんに突っ込んだ。
素人目で見ても反則は明らか。
着地寸前の足は奇妙にぐにゃりと曲がった。
そのまま倒れて動けなくなった石田くんを横目に笑う姿が、映像の端に映っていた。
真実さんは誠くんが好きなんじゃない。むしろ――。
「じゃあ、石田くんは」
「石坂さんに気を遣ってたの。分からない? 誠と付き合ってる子に本当のこと言えるわけないじゃん。今日だって、来てること知ったらどう思うか」
わたしは真実さんの方に体を向けた。
ちゃんと話がしたかった。
「あ、あの――教えてくれて、ありがとう」
誠くんは、どこまでもわたしを傷付ける。
石田くんは、どこまでもわたしを守ってくれる。
どちらを信じるべきか、自分が一番知っている。
突然、ワーッと歓声が上がった。
あれは――石田くんだ。
相手選手への強烈なタックルが成功した。
こぼれたボールを味方が拾う。
果敢に敵陣に攻める。倒れる。起き上がる。
少しずつ、ゴールラインが近付いてくる。
転びながらでもいい。
一歩ずつ、前へ。
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