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生暖かい風が、日差しに映える青い芝を揺らしていた。 真実さんは仕事を後輩に預け、わたしの隣に座った。 「わたしたち、同じ中学だったんだ」 静かな声が、ぽつりぽつりと真実(しんじつ)を語り出す。 「父親がコーチだった縁で、2人をそばでよく見てた。誠も評判のBK(バックス)だったけど、全国的に注目されてた頼に嫉妬したんだって。それで練習中に反則のタックルをして、靭帯の大怪我をさせた」 「そんな――」 わたしは悲鳴をぐっと堪えた。途中で辞めた、と言った誠くんの表情を思い出した。 「でも石田くんは『全然平気』って」 「バカ、そんなの嘘に決まってんじゃん」 真実さんはにべもなく言った。 「あのリハビリ期間がなければ高校日本代表だって目指せた。わたしは誠が憎い。石坂さんと付き合ってるのだって、石坂さんが従順で都合がいいだけ。イケメンだけど、人の不幸を喜ぶ奴が雑誌モデルで成功するはずがない」 真実さんはポケットからスマホを取り出した。「危険プレー集 少年編」と書かれた動画投稿サイトの動画を再生した。 さっと血の気が引いた。 今より幼い誠くんが、ジャンプしてボールキャッチした石田くんに突っ込んだ。 素人目で見ても反則は明らか。 着地寸前の足は奇妙にぐにゃりと曲がった。 そのまま倒れて動けなくなった石田くんを横目に笑う姿が、映像の端に映っていた。 真実さんは誠くんが好きなんじゃない。むしろ――。 「じゃあ、石田くんは」 「石坂さんに気を遣ってたの。分からない? 誠と付き合ってる子に本当のこと言えるわけないじゃん。今日だって、来てること知ったらどう思うか」 わたしは真実さんの方に体を向けた。 ちゃんと話がしたかった。 「あ、あの――教えてくれて、ありがとう」 誠くんは、どこまでもわたしを傷付ける。 石田くんは、どこまでもわたしを守ってくれる。 どちらを信じるべきか、自分が一番知っている。 突然、ワーッと歓声が上がった。 あれは――石田くんだ。 相手選手への強烈なタックルが成功した。 こぼれたボールを味方が拾う。 果敢に敵陣に攻める。倒れる。起き上がる。 少しずつ、ゴールラインが近付いてくる。 転びながらでもいい。 一歩ずつ、前へ。
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