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彼女の住むマンションに着いてインターホンを押す。パタパタと走る音がすると、ガチャリと玄関が開いてエプロン姿の彼女が出迎えた。
「寒かったでしょ?入って!」
彼女が笑って俺の手を引き、家に入れる。キッチンからカレーの匂いが漂ってきた。無意識に喉が嚥下する。
「お邪魔します…」
「用意するから椅子に座ってて!」
彼女がカレー用の大皿を出そうと、戸棚に手を伸ばした。身長が小さいのに爪先立ちで取ろうとしている。危なっかしくて俺は椅子に座らず、彼女の傍によった。それを見計らったかのように、彼女がよろめいて後ろに倒れる。咄嗟に彼女を後ろから抱き留めた。
「危な…!何で踏み台使わないんだよ!」
「ごめん…」
思ったよりも大きな声が出てしまい、彼女の肩がビクリと震える。顔を俯けていて表情が分からない。声を掛けようとすると、彼女が振り向いて俺の服の袖を握ってきた。
「だって…風馬、スキンシップとか無いんだもん」
「すきん…しっぷ?」
「足りないの愛情表現が!本当に付き合ってるのか分からなくなるよ!」
俺の服を掴んだままプリプリと怒り始めた。
正直、「すきんしっぷ」なんてした事も無いし、そんな言葉は初めて知った。
要するに、彼女は愛情表現とやらを求めているらしい。愛情表現…、キスとかか。
「なんか言ってよ、ふう…」
そう思い立って俺は真っ先に行動で示した。彼女は目を見開いたまま、固まっている。
俺のファーストキスは、甘酸っぱくも何とも無い、事務的なものだった。
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