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――もう一度、校庭を見た。すると、昇降口から森田が出てきた。彼は野球場へと向かう足を止め、くるりと振り返って、こちらにブンブンと両手を振ってくる。千晴も、控えめに振り返した。
「部活、頑張って! 森田」
普段は出さない、大きめの声を、上げる。裏返ったかもしれない。でも、いいや、と思える。きっと、素直で心の広い彼なら、そんなこと気にしないだろうから。
「ありがとー!!」
森田が叫ぶ。その高らかで、明るい声に、千晴はふっと、頬を緩めた。そして、学ランの襟元を、開けた。森田の言う通り、今日は、かなり、暑い。千晴は大きく息を吸い、そして吐いた。
彼の吐いた息は、誰もいない教室の空気に、やわらかく溶け込んでいった。
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