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ミーの口元を見て、俺は首をかしげる。
膝をついて、ミーを抱きあげれば、ミーはララと同じくらいの小さな人形をくわえていた。
もともと人形で遊ぶのが大好きで、ミーは、よくこうして俺や夕菜の人形を持っていこうとするんだけど……
「お前、これ、どっから持ってきたんだよ」
ミーの口元から、そっと人形を抜きとると、俺は改めて、その人形を見つめた。
赤と黒のゴシックドレスを着た、女の子の人形。
(わ……この人形、すっごく可愛い)
目にした人形は、今まで見たどの人形よりも可愛いかった。
髪がサラサラで、表情も穏やかで、すごく大人っぽい。
しかも、手や足が棒じゃない。
布と綿で作られた人形なのは確かなのに、その手足にはしっかり関節があって、俺が普段つくるものとは、明らかにレベルが違った。
(スゲー……これ、ここに住んでた人が持ってたのかな? 布製なのにちゃんと動く。それに、このボタンも小さいのにおしゃれだし。あ、この模様は刺繍してあるのか。うわぁ、こまかい……ってか、この人形センス良すぎ!)
さすが、お金持ちの人形!──といいたくなるような、品のあるぬいぐるみに、思いのほか感動してしまった。
可愛いし、綺麗だし、芸術的なセンスすら感じる!
だけど、ひとつ残念なのは
「これ、うちのミーがやったのかな……?」
そのぬいぐるみには、肩から、ざっくり切られたあとがあった。
生地が引き裂かれて、中からは綿がはみでていて、なんだかとても痛々しい。
「あ、そうだ」
すると、ふと思い出して、俺はポケットから、裁縫セットを取りだした。
さっき夕菜が来た時に、とっさに隠した裁縫セット。ちなみに反対側のポケットには、ララが入ってる。
「……せっかくだし、直してあげよう」
こんなに可愛い人形が、このままなのは可哀想な気がして、俺はそのまま床に座り込むと、裁縫セットの中から、針と糸を取り出した。
(糸は……白、しかないか)
肌の色──すこしだけ色味が違う気もしたけど、肌色がなかったから、あまり目立たないように白にした。
着せ替え人形みたいになってるその人形は、服だけ別にできたから、まずは肩のほころびを縫い目が目立たないようにすくいながら縫って、そのあと、糸を赤色に変えて、ドレスの方も縫い合わせた。
「できた!」
おー、なかなかいい感じ!
お化け屋敷の中で何やってんだ──って、自分でもツッコミたくなったけど、縫い終わって、改めてその人形を見れば、本当に綺麗で可愛くて……
「いいなー……俺も、こんなすごい人形作れたらいいのに」
そんなことをしみじみ思っていると、ミーが横で、にゃ~と鳴いた。
あ、そうだった。もう帰らないと、夕菜が心配してるんだった。
そう思うと、俺は裁縫セットをまたポケットの中に突っ込んだ。
だけど、その時
──ガシャァァァァァン!!?
と、突然、ガラスが割れる音が響き渡った。
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