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◇◆◇
「やっべー、もうこんな時間だ!」
それから、人間界に戻ったころには、もう夜の七時を過ぎていて、俺達は、おばけ屋敷の中で、ちょっと慌てていた。
「どうしよう……っ」
「お母さん達、絶対心配してるよな!?」
「大丈夫だよ。僕の魔法で、門限の少し前の時間に戻してあげる」
「え、そんなことも出来るのか⁉」
「うん。それより、無事に連れ戻せてよかったね」
するとアランは、そう言って、花村さんを見つめた。
俺のせいで巻き込まれた、花村さん。すると俺は、改めて、花村さんに謝った。
「花村さん、ごめんね! 俺のせいで、こんなことに、また巻き込んで!」
「うんん、大丈夫! それに、威世くんの方こそ、私にララ君を持たせてくれてありがとう。おかげで、一人で不安な思いしなくてすんだの」
「そっか、よかった。それと……前髪あげたんだな」
「え?」
俺がそういえば、花村さんは、急に顔を真っ赤にして、手で額を隠した。
「あ、えと、その、やっぱり変だよね? おでこのアザ、気になるだろうし、やっぱり下ろしたほうが」
そう言って、恥ずかしそうにする花村さん。
確かに、右の額には、小さなアザがあった。
桜の花びら見たいな、ハートの形みたいな、そんな薄いピンク色のアザ。
でも、俺とアランは、二人顔を見合わせると
「「うんん、すっごく可愛い!!」」
「え!? かわいい!?」
前髪を上げたほうが、ずっとずっと可愛いと、俺とアランが一緒になってそう言ったら、花村さんは、さっきよりも顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。
◇
そのあとは、アランに時間を戻してもらって、夜から、夕方になったお化け屋敷の中で、俺たちは、最後のお別れをした。
「ねぇ、ハヤト。記憶はどうする?」
「は? まさか、また消す気じゃないだろうな?」
「うーん……消したくはないけど、ひとつ約束してほしいんだ」
「約束?」
「うん、僕たちと出会ったことや、魔界のことは、全て『秘密』にしてほしい」
秘密──そう言われて、俺は思った。
確かに、魔界が本当にあって、その王子が人間界に来ているなんて、誰かに知られたら大変だ。
だけど、秘密にするってことは、俺にとって、また隠し事が一つ増えるってことで。
だけど──
「大丈夫! そんな秘密なら、大歓迎だ!」
俺は、友達のことを忘れないために、また一つ秘密をもった。
そして、可愛いものが大好きで、裁縫が趣味で、誰にも言えない秘密を持っていた俺とアランの長くて短い一ヶ月は、この日を最後に終わりをつげた。
お化け屋敷は、また廃墟に戻って、俺は花村さんとララと一緒に、アラン達が、魔界に帰るのをずっと見つめていた。
見えなくなるまで、ずっと、ずっと──
(絶対、戻ってこいよ……アラン)
夕焼け空には、一番星が輝いていた。
それは、俺達の別れを見届けているかのように、切なく優しく、輝いていた。
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