25人が本棚に入れています
本棚に追加
エピローグ
アランが魔界に帰って数ヶ月。
あれから、俺の環境はだいぶ変わった。
まず、一つ目は、誕生日プレゼント。
あのあと俺は、誕生日に一番欲しかったものを、勇気を出して家族に伝えてみた。
ずっと言えなかった、欲しいもの。
それは──裁縫セットだった。
学校にもあるし、始めは反対されるかとおもったけど、思い切って、可愛いものが好きなこととか、裁縫が好きなこととか、全部うちあけたら、お父さんもお母さんは「いいよ」って言ってくれた。
実をいうと、お父さんたちは気づいていたらしい。でも、俺が隠していたから、気付かないふりをしていたんだって。
それにはビックリしたけど、その後は、家族みんなが、俺の事を受け入れてくれた。
それどころか──
「お兄ちゃん! これにリボンつけてよ!」
そんな感じで、よく妹やお母さんに、修理やアレンジまで頼まれるようになった。
最近は、お母さんからミシンまでかりて、人形の服だけじゃなく、お母さんのポーチとか、夕菜のヘアゴムとか、お父さんのマスクまで作ってる。
なんかもう、我が家の便利屋みたい。
だけど、前みたいに隠れて裁縫をしていた時とは比べものにならないくらい、楽しい毎日を過ごせてる。
二つ目は、ララ。
ララは、あれから少しだけ成長して、小学1年生くらいになった。
人形たちは、知識が増えるに連れて成長するらしく、ララは、毎日のようなに『あれなに?』『これなに?』って聞いてくる。
見た目は、未だに女の子みたいで、女の子の服も男の子の服も着ている。ただ、最近は、自分のことを『ララ』ではなく『ボク』というようになって、伸びたピンク色の髪は、後ろで三つ編みにして束ねるようになった。
「ハヤト、次は字をかけるようになりたーい!」
そして、最近は、学校の勉強にも興味を持ち始めて、今は、ひらがなを教えてあげてるんだけど、なんだか、もう一人、妹弟ができた気分だ。
そして、最後に──花村さん。
花村さんは、あれから前髪を上げて学校に来るようになったんだけど、実は美少女だったことが発覚して、一気にクラスの人気者になっていた。
図書室には、未だによく行くみたいだけど、クラスの女子だけじゃなく、男子ともよく話している姿も見るし、今は、一人でいる姿を、ほとんど見なくなった。
「威世くん、おはよう!」
「おはよう、花村さん」
そして、春が来て、新学期。
俺たちは、6年生になって、また同じクラスになった。
前髪を上げた花村さんは、すごく可愛くて、もう幽霊と言われていた時の面影は、全くない。
本人は、額のアザをまだ気にしているみたいだけど、もし、笑う奴がいたら、俺が守ってあげようと思ってる。
なにより、この花村さんが、毎日つけてるヘアピンが、俺があげたヘアピンだってことは、きっと、みんな知らないんだろうな?
「ねぇ、威世くん、四丁目のお化け屋敷のこと聞いた?」
廊下を二人で歩きながら、花村さんが、話しかけてきた。
──四丁目のお化け屋敷。
それは、アランと初めて出会った場所で、色々と思い出の詰まった場所。
だけど……
「お化け屋敷が、どうかしたの?」
「うん……あそこね、入居者が決まったみたいで、最近リフォームされたんだって」
「え?」
その話に、ちょっとがっかりした。
だって、もうあの場所に、アラン達が戻って来ることはないとわかったから。
「そう、なんだ……」
「うん」
きっと、花村さんも同じ気持ちなんだと思った。
あれから、俺たちの環境は、とてもいい方に変わったけど、それでもどこか物足りなさを感じるのは、きっと、この人間界に、アラン達がいないから。
「あのね、私この前、カールさんに似た人みちゃった!」
「あー、実は、俺もシャルロッテさんに似た人見た」
お互いに、気のせいなのにね?
なんて笑いながら。
だって、あの二人が、もう人間になることすらないから。
アランが、少しでも長く生きられるように、暫くは眠らせておくといっていた。
(アラン……今頃、どうしてるかな?)
教室に入って、窓際の席から、ふと外をながめた。
あの呪いを解くのは、簡単なことではないらしく、前に、解こうと研究を始めた悪魔は、結局、200年たっても解けなかったらしい。それだけ、命をかけた魔法は複雑で、解くとなるっと難しい。
それでも、アランは諦めないと言っていた。
シャルロッテさん達の記憶を維持させたまま、ハーツだけを青くする。
大事な記憶だから、なかったことには、したくないって──
「颯斗~、クラブ活動のプリント出したか!」
外を眺めていると、数人の男子たちが、俺に声をかけてきた。
クラブ活動のプリントってのは、何クラブに入りたいか、その希望を書くプリントのこと。
6年生になって、また新しくクラブに入り直すんだけど
「また、今年もサッカークラブに入るよな!」
そう聞かれて、俺は引き出しから、そのプリントを取り出した。
アランと出会って、俺の世界は少しずつ変わり始めた。
世界を変えるのは、たった一人の勇気から始まる。
だから、その最初の一人に俺がなってみようと思う。
もしかしたら、俺の他にも、勇気が出せなくて、ガマンしている子がいるかもしれないから
「いや、俺、今年は、サッカークラブには入らないよ!」
そう言って、クラブ活動のプリントをみんなに見せた。
第一希望に『手芸クラブ』と書いたプリントを!
「しゅ、手芸クラブ!?」
「どうしたんだよ、急に!?」
あ、みんな驚いてる。
まぁ、そうだよな。
ちなみに俺は、相変わらずみんなから「かっこいい」とか「将来はサッカー選手だ」とか言われてたりするけど、もう、みんなのイメージとか気にしない。
「だって俺、可愛いもの作るのが、大好きなんだ!」
そう言って、笑顔いっぱいで答えたら、友達みんな驚いていた。
新しいクラスで、俺は、自分の道を切り開くための、最初の一歩を踏みだした。
6年1組。このクラスでの生活は、いったいどんなものになるんだろう。
「はーい、みんな席に着いてー」
すると、担任先生が入ってきて、俺たちはみんな席についた。だけど、先生の方を見た瞬間、俺は目を見開いた。
「はい。今日は、みんなに転校生を紹介します!」
先生の後に続いて入って来た男の子。
その子を見て、教室中がざわつき出した。
女子は顔を赤くしてキャーと叫び出し、男子は顔を見合せながら話してる。
そこには、すごく整った顔立ちをした男の子がいた。
髪の色は銀髪で、瞳の色は紫で、有名小学校の制服みたいなオシャレな服装と、キャラメル色の革製のバッグを持った、王子様みたいな男の子。
そこには、俺の友達がいた。
あの日、別れた俺の親友が──
最初のコメントを投稿しよう!