死にたいさん

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死にたいさん

   駅のホームで待っているときのことでした。  最終の電車だったせいかホームにいる人は私、一人でした。  仕事の疲れでウトウトしながら電車を待っていると、耳元で「死にたい」という声が聴こえたのです。  私は言葉より、声が聴こえたことに驚きました。  そのホームには私以外、誰もいなくて、ましてや耳元に近づかれるまで気づかないなんてことあるはずがないのですから。  周りを見るも、誰もいません。  何かの音が、そう聴こえたのだと無理やり納得させました。  電車が来るまであと3分。    死にたい……死にたい……死にたい……死にたい……。  男とも女とも子どもとも老人ともつかない声は大きくなるばかり。  でも……。私が、ふと顔を上げたら目の前にいたのです。  顔は判別できなかったのですが「何か」がいたのです。  私は驚いて思わず押したのです。  電車が迫ってくる線路にその謎の「何か」を。  電車は何事もないように停車し、私はフラフラになりながらその電車に乗りました。  中には誰もいなくて真ん中に座って一息ついたら、隣に何かが座る気配を感じました。  向かいの窓ガラスの暗闇の中には私しか写っていません。  私は隣を向くことができなかった。  身体が金縛りにあったのか全く動かなかったのです。  やがて、耳元に、また先ほどの声が聴こえました。  ありがとう……死なせてくれて……。                                    了
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