La Vie en rose

4/7
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 炊き出しをして数日後の夜、孤児院の周りを何人もの足音が囲んだ。その様を僕とアリスティドは孤児院の屋根の上に隠れながら見ている。  取り囲んでいるのは、おそらく男達だろう。灯りは月の光しかないので、それで確認出来る範囲での話にはなるけれども。  太い木の棒を持った男のひとりが、孤児院の入り口に手を掛けようとする。それを合図に、僕とアリスティドは手に長い棒を持ったまま屋根から飛び、男達の前に降り立つ。 「こんなこったろうと思ったよ」  僕がそう言って棒を構えると、男達は驚いた声を上げて僕達に襲いかかってくる。持っている武器は、先程の男のような木の棒だけでなく、短いナイフを持っているやつもいる。  リーチとしては、僕とアリスティドが持っている棒の方が有利だ。  ナイフを持った男が刃を持って突っ込んでくる。僕はすぐさまに狙いを定め、手に持った棒で男の喉元を鋭く突く。  アリスティドの方には木の棒を持った男が振りかぶり、脇からナイフを持った男が斬りつける。アリスティドは軽くステップを踏むように後ろに下がり、木の棒とナイフの軌道を避ける。そうして男達が体勢を崩したところで、手に持った棒でふたりまとめて横殴りにしている。  僕の方にも、ナイフを持った男がふたりまた襲いかかってくる。足を狙えば動けなくなると思ったのだろう、ナイフで足を突き刺そうと振りかぶられた手を足で蹴り上げ、ナイフを宙に跳ばす。それと同時に、肩を狙ってきた男のナイフを棒で叩き落とし、すぐさまに鳩尾をしたたかに打つ。足下にいた男には、かかとで脳天に一発食らわせておいた。  うまいことこいつらをあしらえるかと思っていたら、どうやら油断したようだ。ふたりほど孤児院の中に入ってしまったようだった。  アリスティドが相手していた男が、孤児院の中に向かって叫ぶ。 「ガキどもを人質にしろ!」  その男の顎を、アリスティドがすかさず蹴り上げる。男はのけぞって倒れ込んだ。  外にいる男達は、あらかた地面へと転がせた。けれども、男達は呻き声をあげながらも余裕の表情だ。 「やってくれたなお前ら。 子供になにもされたくなければ、大人しく金出しな」  よろめきながら立ち上がる男達に、僕とアリスティドは、長い棒を持ったままとはいえ、両手を挙げて見せる。 「ああ、これは運が悪かった」  溜息をついてアリスティドがそう言うと、男達が嫌な笑い声を立てる。  しかし、その笑い声はすぐに呻き声に変わる。僕とアリスティドが、男達の鳩尾や喉を突いたり、頭を強く殴りつけたりしたからだ。 「運が悪かったのはお前らだよ」  僕がそう言って男達を殴りつけると、男達はふらつきながらも各々武器を構えて吼える。 「なんだ! ガキどもがどうなってもいいのか! おい、ガキどもをやっちまえ!」  孤児院の中にいる仲間に言っているのだろう。けれども、中にいるであろう男の仲間から返事は無い。その代わりに、孤児院の二階の窓から男がふたり降ってきた。それを見て、目の前の男達が引きつった声を上げる。 「残念ながら、子供達のところにはうちで一番強くてヤバいやつを付けてたんでね。 ご愁傷様だ」  二階から降ってきた男ふたりに意識は無い。僕達が相手をしていた四人も、すっかり腰を抜かしてしまったようだった。  僕とアリスティドとで目配せをして、地面に座り込む男達に近づき、足で肩を蹴って地面に寝転ばせる。それから、地面に転がっていた大きな石を手に持って、それを男の鎖骨に打ち付けた。  男が悲鳴を上げる。どうやら狙い通り鎖骨が折れたようだ。  怯えている他の男達も、同様に鎖骨を折る。そうして全員が戦意喪失したところで、アリスティドが威圧的な態度で男達にこう言い放った。 「こんな目に遭いたくなかったら、今後この孤児院を狙うのはやめろ。 人数が多ければなんて考えても無駄だ。僕達はお前達が想うほど弱くはない」  男達が、泣きながら助けを乞う。せめて命だけは助けて欲しいと、今の自分たちの見苦しさも構わずに泣いて叫く。  その男達に、アリスティドは圧をかけたまま言葉を続ける。 「これ以降、この孤児院に手を出さないと誓うのであれば、せめてもの慈悲で炊き出しに来るのは許そう。 けれどもその誓いを破ったらどうなるか……わかるな?」  男達は情けない声で何度もわかったと繰り返す。それから、なんとかふらふらと立ち上がって、孤児院の前から姿を消した。  ふと、地面の上をもう一度見る。すると、意識を失っている男ふたりが残されていた。「……これ、どうする?」  僕の問いに、アリスティドは溜息をつく。 「まぁ、こいつらが目を覚ましたら、もう一回言い聞かせるよ。 お仲間から話が行くのが一番良いけれどね」 「なるほど把握」  しかし、目を覚ましたらと言っても、冷える夜空の下でいつまでも見守っていたい相手ではない。面倒だからこいつらも早く目を覚ましてくれないかと思いながら、僕は残された男達を眺めた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!