La Vie en rose

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 あのとんでもない修道士の話を領主様に伝え、対策を打って貰ったあと。僕が何度銀行に忍び込み、警邏隊に囲まれても、あの修道士は姿を見せることがなくなった。ほんとうに素直なんだなあいつ。  もっとも、あの修道士はこの街以外のところにも魔女を狩りに行っているようなので、修道院から離れていることも少なくないという話は領主様から聞いてはいるけれども。  あの修道士が来なくなってだいぶ気は楽になったけれども、警邏隊は本気で僕を捕まえにくる。これは承知の上だけれども、それでも捕まれば、領主様が修道院に話を通したとおり、僕は魔女としてあの修道士に引き渡される。それを考えると、油断してばかりはいられないけれども。  今夜も、銀行に忍び込んで不審な金の動きを探す。だいぶターゲットが絞り込めてきた。  不正を働いている貴族や商人も、かなりの数目星が付いた。目星を付け次第、ターゲットの屋敷に忍び込んで証拠書類を盗み出す。そしてそれを警邏隊に投げ渡すというのを何度も繰り返した。  こうやって不正を暴くのは、盗みをやっていた頃からやってはいるけれども、今はそれ以外に重いお宝を盗まなくて済むようになった分、ほんとうに身軽だ。これで子供達と僕達、孤児院に暮らすみんなの生活が安定するなら、警邏隊から逃げ回ることなんてなんの苦にもならなかった。  外から警邏隊の声が聞こえてくるまで帳簿を読み込んで、窓から銀行を抜け出す。  今夜も逃亡劇のはじまりだ。  そんな日々の中、領主様からの支援は滞りなく受けられている。子供達に三食しっかり食べさせられているし、月に二回炊き出しもできている。それどころか領主様が気を遣ってか、子供達に文字を教えるための教材も寄付してくれた。  そう、僕とアリスティドは文字が読めるけれども、この孤児院にいるほとんどの子が文字を読むことができないのだ。そのことで奉公先で大変な思いをしている子の話を聞く度に、なんとか文字を教えられないかと悩んでいたのだけれども、これからは教えることができる。そのことはとてもありがたかった。  魔女という不名誉なレッテルを貼られはしたけれども、それでも盗品を売って暮らす生活をしていた頃よりは安全で安定した生活を送れている。  たまにこの孤児院の金を狙ってごろつきが来るけれども、それも適時返り討ちにして事なきを得ている。最近ではこの孤児院を狙うのが下策だという噂も流れている。それと同時に、もう金を奪おうと無理に襲うよりは、金品を狙うのは他のもっと良いカモを探して、この孤児院では素直に月に二回の施しを受けた方がよっぽどいいと言うごろつきも少なくない。ほんとうは他のところにも強盗に入るような真似は謹んで欲しいけれども、強盗達にもそうしなければいけない理由はある。そうしないと生きていけない。だから、生活のためにそうする彼らを僕が止める権利はどこにもないし、止める気もない。この孤児院が無事でいてくれればそれで良いのだ。  ごたごたがないわけでもない。楽な生活ができているわけでもない。むしろ僕は危ない橋を渡っている方ですらあるとは思うけれども、今の生活に不満はない。  人生はバラ色。とまではいかないし、きっとそうはならないだろうけれども、僕とアリスティドと子供達。そのみんなが生き残ってそれどころか仲良くしあわせに生きていけるのなら、僕の人生は上々なのだ。
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