二年忘却

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おはよう いつも通りの朝 いいや違った  母親の「起きなさい」も、祖母の若かりし頃の笑顔の写真もないこの部屋。 ただ数分に一度、無機質な電車の音だけが聞こえた。一丁前に買った灰皿を横にタバコを吸う。まずい。晴天の空に未成年の格好つけた息が吸い込まれていった。  東京に憧れた少女A~Zのうちの一人だ。私は今日から地元を離れ専門学校に通うらしい。入学式を終え若干シワになってしまっているセットアップが地べたに脱ぎ捨てられていた。  昨日は地元が一緒だった子たちと遊んだ。学校に馴染めるか、彼氏はできるか、明日何着て行こう。そんなモブでしかない当たり前の会話が一番楽しいと思えるような仲間たちの温度感だった。  キャットストリートと言う名をした人間しかいない道にある古着屋で買ったニットとボロボロのデニムを履き朝の支度を済ませていく。緊張と楽しみが混ざり食欲はない。    私はこの日を忘れないだろう    教室へ入る、結構ギリギリに着いたのに来てない人がちらほら見えた。するといかにもシティーボーイ、私の毛嫌うような男が入ってきた。みんな見ていた。そんな喉まで出そうな愚痴を飲み込む前に彼は後ろの席に座った。名前が似ていた。  自己紹介、、したい人はいるのだろうか、よくわからない奴らに自分を紹介する。「〇〇県から来ました」誰もがびっくりしただろう、私の言う彼は私の地元より全然田舎出身だった。しかも愛想も良さそうでみんなに溶け込んで行った。私も机の周りの子たちとは話したし、上出来だ。なぜ張り合っているんだろう、、。  その夜、彼からラインが来る。なぜかとてつもなく嬉しくなった。明日の授業の持ち物を聞いてきただけだったが、私はベッドの上でなんて返そうかと10分は悩んだ。    正直私の思うところ彼はヤリチンで彼女もいて、みんなにこう言うことを聞いて、これからの学生生活ワンチャンないかと思ってるに違いないとそこまで考えていた。あの見た目の相場はそうと決まっている!しかし感情はそんな私の思いを無視して高ぶっていた。私は自然と続くようなラインを返していた。  翌日。遊び人(妄想)は「ありがとう、助かった!」などとお得意そうな笑顔を見せてきた、電子世界では10分かけて返信できるのに現実では既読したら即返信、残酷だ。「いえいえー、、」あーしょうもな私。  放課後、クラスの女の子4人で喫茶店に行った。出会い系のプロフィール程度の会話をした後、やはり男の話になった。どうやら彼はモテているらしい。2日目だぞ、嘘だろう。都会の女の子はこんなにもあれなのか。この子たちの会話を聞かせたら一発で飛びつくだろうな。「昨日連絡来たんだー」あれ、自然と対抗している自分がいた。  美容学校に通ってるのでシャンプーの授業があり、お互いにお互いの頭を洗う。神様は遊んでいるのか彼とチームになった。正直午前の授業のことは覚えてない、それくらい楽しみだったのだろう。波が引いた、彼には彼女がいるらしい。遠距離のしかも年上の。
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