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「なにこれ」
碧がいるのは大きな公園。
しかもあまり人が来ないような場所。
平日の午後のせいか全く人の姿はない。
家族連れが来るような遊具がある場所から離れ、大学の近くなのに碧は来たことのない場所。
他の場所とは違い芝生ではなく、黄色いたんぽぽが一面に咲いていた。
ただの雑草でしかないのに、こんなに満開のたんぽぽはきれいだった。
黄色いじゅうたんのよう。
そこに連れてこられた碧の格好は…
「コスプレ?」
「これが正式の空の神子」
満足そうに星が言う。
やっぱりアニメか。
碧は苦笑する。
どんなファンタジーか知らないが、星はよっぽど好きなんだろうな。
碧の少しだけ伸びてきた髪を青いスプレーで染め、衣装は白いワンピースのような頭から被るだけの膝までの服。ただ白いだけではなく胸元や袖、裾の部分に銀糸の刺繍がふんだんに施されていた。
スカートだったら逃げ出したと思うが、下にやはり同じタイプのスキニーパンツを履き、白い編み上げのサンダルを付けていた。
「写真撮るの?」
「楽にしてていいから。その辺に座っててもいいよ」
と、言われても。
コスプレにしては上等そうな衣装に、座ったら植物の汁で染まってしまいそうでできそうにもない。
空が眩しいなあと上を見ると、カシャッと星がデジカメを構えていた。
「好きにしてて」
そう言われ意識しないことにした。
コスプレ撮影なんてしたことないが、どうせ星のことだから嫌だといっても逃がさないだろう。
空は濃い青。
よく言う紺碧の空。
碧の色。
紺野碧、紺碧。
高校の頃からかわれたことがあった。
確か美術部の先輩。
ぼんやりと思い出に耽りながら、掌を目の上に当てる。
眩しい。
眩しいくらい青い。
「碧」
呼ばれて視線を向ける。
カシャッ。
「目を閉じて」
言われたように目を閉じる。
ポンッと弾けた音がした。
驚いて目を開ける。
足元からぶわぁっとホワホワした白いモノが飛び出した。ものすごい量のそれが空に向かって飛んでいく。
たんぽぽの綿毛が一斉に飛んでいく。
呆気に取られてそれを見ていると、後ろから声がした。
「竜王によろしくね」
「えっ?」
振り向くと、白い綿毛の向こうに黄色い髪が見えた。
と、思ったら綿毛の量がますます増えて視界が真っ白になった。
くらっと目眩がした。
倒れないように爪先に力を込めたが、ふっと身体中の力が抜けて…
意識を失った。
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