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冬の終わりのばら園は終末みたいな空気をまとっている。ここにある全ては茶色く、かさかさしていて、生きているものなんて何もない。そんな雰囲気があった。
僕は世界が滅ぶ瞬間を真剣に想像してみる。空は何色だろうか。風はどのくらい吹いているだろうか。温度は。においは。音は。誰かの声は聞こえるだろうか。もし僕がそのときカメラを持っていたとして、僕はその景色を撮るだろうか。この景色を誰かに伝える、この景色を誰かに残すという意味を失ってなお、僕は写真が好きだと思えるのだろうか?
「お兄ちゃん」
いつの間にか閉じていた目をぱっと開ける。振り向けば妹が立っていた。
「お待たせ、もういいよ。本借りたから。ママ、スーパー寄って帰るって」
「うん。あれ……お母さんは?」
「きてない。虫がいるかもって言ったら、じゃあロビーで待ってるねって」
「ふうん。こんなに寒くて虫なんか出るかな」
「わかんない。どうでもいいし」
妹がばら園のアーチをくぐる。僕も妹の二歩後ろをついていく。
「なんか、一本も咲いてないとあんまりおもしろくないね」
「そうかな」
「そうだよ。茶色いだけじゃん。ダサい」
「世界の滅亡みたいで、おもしろいと思うけど」
振り向いた妹がぐちゃっと顔を潰し「お兄ちゃん、頭おかしいんじゃないの?」と言う。僕は少し迷ってから、
「……メグは誰にそう言われてんの?」
言葉を投げつける。妹が、
「どうでもいいじゃん」
と言う。妹は表情一つ変えなかった。僕は言葉に迷う。迷っているうち、気がつけば僕たちは図書館のロビーに戻っていて、妹はお母さんと共にイベントのパンフレットを眺めながらどれがいいとか悪いとか、様々なことを小声で話している。僕はそれを見ている。
ふと近くのチラシに目を落とすと、そこには先ほどの池の奥にある釣り堀の再開日と料金の変更点が書かれていた。僕はその紙を手に取り、
「ねえメグ、お母さん。僕、春になったらここで釣りがしたい。お父さんも誘って、みんなでやろうよ」
二人に話しかける。
二人はぱっと僕の顔を見、それからメグは何かを言いたげにお母さんを見上げたけれど、
「ショウ、ママがお魚触るの苦手だって知ってるでしょう? そういう意地悪なことは言わないでよ、もう」
「……そうだよお兄ちゃん。お魚なんてわたし、気持ち悪くて触りたくない! 虫だっているかもしれないしさあ、わたし、ぜーったい行かない!」
そういって妹はいつものように、僕たちに向け笑ってみせた。
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