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写真集を三冊抱え、慎重に階段を下りる。さらに下りた先、近くの棚から適当なエッセーを二冊ほど手に取り写真集の上へ重ねる。エッセーに目を通す気はさらさらなかったけれど、お母さんは僕が文章ばかりの本を一冊も選ばないと信じられないくらい機嫌が悪くなる。
お母さんはたくさん文章を読めば僕がいい子になると信じている。
妹はお母さんがそういうふうにしか考えられない人だと知っている。
妹は僕よりもうんと頭がいい。
だから、妹はお母さんが薦める本をたくさん読む。そうしておけばお母さんが自分を叱らないと知っている。自分にだけは優しい顔を見せてくれると知っている。
僕は妹が学校でいじめられていることを知っている。
僕は妹が学校で保健室にしか行けないことを知っている。
僕は妹がお母さんにそれを知られないよう保健室や担任の先生たちへ、
「わたしのことは全部、お父さんだけに伝えください」
と何度も頭を下げて頼み込んだことを知っている。
僕はお父さんがときどき僕たちの学校へやってきて、この世の終わりみたいな顔して先生たちと話し合っていることを知っている。
お母さんは、何も知らない。
僕は妹に、何もしない。
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