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カウンターで本を借り、児童書のコーナーへ行く。お母さんは大量の伝記の前にしゃがみ込み妹と話し込んでいた。妹はお母さんの目を見、うんうんとわかりやすく「わたしはお母さんのお話を聞くことが本当に楽しいです」とお母さんに教えてやっている。僕にはお母さんが心底嬉しそうに見えたし、妹はそうでもなさそうに見えた。
妹が一冊の伝記をぱらぱらとめくりだしたところを見計らって、
「お母さん」
と話しかける。お母さんは、んー、といいながら僕を一瞥し、しかしすぐ、
「メグちゃんまだ二冊しか決まってないから。ショウも座って、何か読んで待っててよ」
と僕に言い、
「あ、メグちゃん。こっちはどう? ママはこれがいいと思うんだけど。面白そうよね?」
妹へ細かい文字がつらつらと並ぶ、どこかの誰かがどう生きて、何をして、いつどのように死んだのかが書かれた本を渡した。妹は「わあ! ホントだ、面白そう! あれ……でもこれ、去年読んだ気がするー!」などと言いながらニコニコと口角を上げる。お母さんは「ええ本当? メグちゃん、いつ何を読んだのかも覚えてるの? すごい!」と嬉しそうだった。妹の目の奥が笑っていないことにお母さんは気づかない。
「ねえ、僕ちょっと池のほう行ってくる。あとで戻ってくる」
僕が言うと、お母さんはやはり、んー、と生返事をした。どうせあとで「一人で勝手にどこ行ってたの」と怒られてしまうのだろうな。フォローするように妹が、
「お兄ちゃん、あとでねー!」
と僕に手を振った。妹の顔はお母さんからは見えない。妹は口角すら上げていなかった。
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