ワールズエンド

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 玄関を出、狭い道路を渡り、桜を縫うような配置の階段を上る。もうすぐ春がくるとはいえ池の水を撫でながら吹く風は僕の両耳をきんと冷やし、小さな痛みを残した。  僕は池の横、舗装された道をゆっくりと歩く。春になれば桜が咲き、もう少し季節が進めば隣の釣り堀だって使えるようになるだろう。この池にも大量の鯉がいるし、夏には気が狂うほどの鳥が大声で鳴く。代わる代わるとりどりの花が咲いて、緑が増え、いろんな人が木陰で日向ぼっこをする。  僕はこの池が好きだ。お母さんは「自然はいいけど虫は嫌い」だと言う。僕は、本当は妹がこの池の釣り堀に興味があることを知っている。お母さんはお父さんが焼き魚を食べたいと言うたび、 「切り身の鮭とか、鱈ならいいけれど……」  と苦い顔をする。妹は釣りの話をお母さんにしない。
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