娘からの依頼

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 俺の娘は、世界一可愛い。  素直で、優しくて、笑った顔なんて天使そのもの。世界中探しても、俺の娘よりも可愛いやつはいないだろう。が、時々突拍子もないことを言い出す時がある。 「あのね、お父さん。お願いがあるの」  仕事場兼自宅でパソコンのデータ整理をしていると、娘のみこが甘えるような声を出しながら近づいてきた。なんとなく嫌な予感がするのは気のせいか? 「なんだ。今月は厳しいから、お小遣いはもうあげられないぞ。ほしいものがあるなら、」 「ううん、お小遣いじゃないの」  来月まで我慢しろ、と俺が言う前に、被せるようにそう言ったみこが、上目遣いでこちらを見てくる。これ、あれだな。またいつものパターンだろ? 「わたしの彼氏が浮気してないか、お父さんに調査を依頼したいの」  ほらな。この子は、また突拍子もないことを言い出す。しっかし、今回はいつにもましてキレキレだな? 「……あのな、みこ。突っ込みどころが多すぎて、お父さんは困ってます。どこから突っ込めばいい?」 「だって、お父さんは浮気のプロなんでしょ?」  大きな丸い目を輝かせるみこから言われた言葉に、思わず吹き出しそうになってしまった。 「浮気調査! 浮気のプロじゃなくて、浮気調査のプロな!」  「そうなんだ? どっちでもいいよ。とにかくお父さんは浮気に詳しいってことだよね」 「どっちでも良くないからな。だいぶ違うぞ」  ふ〜ん?とニコニコ笑顔を浮かべている娘に思わずため息をついてしまう。  浮気のプロというと、とんでもないやつみたいだが、まあ浮気調査のプロというのは間違いではない。  それというのも、俺の仕事は探偵だ。  探偵といっても、ドラマや小説のように難事件をかっこよく解決するような華々しいものではなく、ひたすら裏で調査をする地味でどこにでもいる探偵。依頼の二割が人探しや身辺調査、残りの八割が浮気調査だ。 「依頼料も用意したんだよ。足りないと思うけど、親子割ってことでお願い! お父さん!」  みこは財布から札と小銭を出してきて、それを俺の机の上にジャラジャラと並べる。机の上に置かれているのは、千円札が三枚と百円玉五枚、十円玉八枚だ。足りないというレベルじゃないよな?  咎めるようにみこの顔を見ると、えへっと世界一可愛いスマイルをかましてきやがった。くっそこいつ、自分の可愛さを分かってやがる……っ。俺がお前の笑顔に弱いことを知っていて、そうするんだな?
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