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-last lie-
少し冷たい風が頬を撫でた。
「昨日母親から連絡あって、親父が海外で仕事することになって、俺は嫌だったけど未成年だからって一緒に行くことになったんだ。だから最後にって思って。…明稀と今日ここに来れて良い思い出が出来て良かった」
「…は?」
ちょっと待て、唐突すぎて理解が追いつかない。
「来週にはもう行くことになってる。だからあのマンションも使えなくなる」
来週って…すぐじゃんか。
「…でも、すぐ帰ってくるんだろ?」
「…分かんない。親父次第…かな」
「何だよそれ!ふざけんな!」
咲玖が悪い訳じゃない、分かってる。分かってるのに咲玖を責めてしまう。
「明稀…ごめん」
これでお別れとか…そんなの納得できねーよ。
ポツポツと雨粒が降り出した。俺の代わりに空が泣いてるように思えた。
「雨降ってきたな…明稀、帰ろ?」
「…先、帰ってて」
「でも…風邪引くぞ?」
「ちょっと1人になりたいんだ」
「…分かった。なんかあったら連絡しろよな」
雨は次第に強くなってきた。咲玖の背中は少しずつ小さくなっていく。
痛い。胸が痛い。
青信号が点滅し地面に打ち付ける雨に緑色が反射する。
咲玖…行くなよ…行かないでくれ…
あの時見た夢は正夢だったのか?
咲玖に言わなきゃ…
今度こそ、俺の本当の気持ちを。
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