-last lie-

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「明稀っ!!」 目を開けると、母さんが俺の手を握って泣きそうな顔で見ていた。 なんだよ大袈裟だな… 「…………!?」 おいおい、何だこれ…夢か?夢なら覚めてくれ。 「明稀…」 母さんの隣りに居た父さんも顔を出した。 父さん…俺なんか変なんだよ。 話したいのに…声出なくて。 「明稀、お母さんたち先生とお話してくるね」 両親が出ていった後、ひょこっと兄貴が顔を出した。 兄貴、大学は?またズル休みか? 「…兄ちゃん大学辞めたよ」 「!?」 「今正社員で働いてんだ、すげーだろ?」 そんな…あんなだらしなかった兄貴が正社員…。 「それと、来年辺り結婚しようと思ってんだ。今度明稀にも紹介するよ」 「…っ」 結婚だと!?兄貴が!? 俺が寝てる間に天地がひっくりかえったのか?! 兄貴の衝撃の告白に驚いていると両親が先生と戻ってきた。 「蓮見さん、気分はいかがですか?」 「…っ」 全然良いんですけど声が出ないんすよ。 「蓮見くん、今日は20‪✕‬‪✕‬年3月6日。君がここに運ばれてから5ヶ月が経ったんだ。その間君はずっと眠り続けていたんだよ」 え…5ヶ月も? 俺は咲玖と水族館に行ったことを昨日の事のように覚えてる。 あれから5ヶ月も経ってるって言うのか? そうだ、咲玖は? 確か海外に行くって言ってたよな。 て事はもう…日本には居ないのか…。 それから数週間、喋る事もなく俺は病室で静かに過ごした。 何か言いたいことがあればあいうえお表のようなもので伝えることが出来た。 声が出なくなった原因は分からないらしい。 事故のショックだろうと言われた。 治るかも分からない、このままずっと喋れないままかもしれないし、明日突然話せるようになるかもしれないと。 でもそんなことはどうでも良かった。 俺は咲玖のことで頭がいっぱいだった。 咲玖、今どうしてるかな。 どこの国かも聞いてなかった。 時差はどれくらいあるんだろう。 そうだ、手紙を書こう。 思い立った俺は、母さんが置いていってくれた小銭を持って、病院の1階にある売店でノートとペンを買った。 病室に戻り、暫く考え込む。 いざ書こうとすると考え過ぎてペンが進まない。 もういいや、思ったことそのまま書いていこう。文章になってなくてもいい、伝わればいい。 夢中でペンを走らせる。 咲玖に言いたいこと、伝えたいこと、どんどん溢れ出てくる。
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