7月10日、快晴

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7月10日、快晴

 パァン。  青空を切り裂くような破裂音と共に、位置に着いた五人が一斉に駆け出していく。  周囲からは思わずわぁっと歓声があがり、灼熱のグランドは一瞬にして熱戦の場に変わる。  青い空、白い雲、体育着姿の少年少女。  この上なく健康的な光景を目の当たりにすると、あぁ、あたしも今、青春の一ページってヤツを記しているんだろうなぁとかなんとか思う。 「鈴木、青春に浸るのもいいが、早く位置に着け」 「……チッ」  鈴木花菜(かな)16歳。  青春をやらされる側って、そんなにいいもんじゃないと切に思うお年頃。  しぶしぶ白線まで歩み寄り、少し迷ったけど右足を前に出すことにした。  あたし以外の四人はとっくに準備万端で、百メートル先のゴールにギラギラした視線を向けている。  仕方なく、あたしもそうっとかがみこんで、両手を地面に軽くつけた。  体育教師が掲げた手の中のカタマリの先端が、キラリ、太陽に反射して光る。 「位置についてー、よーい…」  パァン! 「ひいいいいっ!」  7月10日、快晴。今日も一人、迷える少女が青春を強制させられている。 *
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