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柳澤陸斗、大手商社I&Iホールディングス勤務の28歳。身長180センチの細マッチョ。高校時代はサッカー部に所属した、爽やかイケメン。親友は朴木智則――つまり、うちのお兄ちゃん。
ちなみに今回のアポはこのお兄ちゃん権限をフル活用させてもらった。彼との連絡はすべてお兄ちゃんに任せきりだったから、あとでお礼言わなきゃね。
「やぁ、まあちゃん久しぶり」
うおっ、眩しい。甘いマスクから繰り出される王子様スマイルに目が眩む。でも、くらくらしたのは私だけではないらしい。受付のきれいなお姉さん方も流れ弾を食らって悶えている。社会人になった今も、キラッキラのモテオーラは健在……どころか、ますます磨きがかかったようだ。
極上の笑顔を浮かべたその彼が、私に向かって歩いてくる。
脇目もふらず、まっすぐに。
あ、ヤバい。カッコよすぎて気絶しそう。
大丈夫か、私。しっかりしろ、私。
「柳澤さん、ご無沙汰してます」
なんとか意識を持ち直し、私はきっちり頭を下げた。社会人として挨拶は基本中の基本だ。たとえ相手が片想いの相手であろうと、例外はない。
「それから、まあちゃんはやめて下さい。今日は一応、OB訪問で来てるんですから」
「ああ、そうか。ゴメンね、まあちゃん」
「ほらまた」
「ゴメンゴメン。でもさ、いまさら朴木さんって呼ぶほうが照れちゃうよ。それにしてもOB訪問かぁ……智則から話があったときは驚いたよ。あのまあちゃんが今や大学生だもんなぁ」
お兄ちゃんと彼は小学生以来の友人だ。6歳年下の私とも旧知の間柄である。家族ぐるみの付き合いで、実家のアルバムには私とお兄ちゃん、そして彼の映った写真が山ほどある。
自分で言うものなんだけど、彼はきっと、私のことが大好きだ。
その溺愛ぶりたるや実の兄が霞むほどで、家に来るたび私をたっぷり甘やかし、お兄ちゃんには「陸斗がいると真綾がダメ人間になる」と苦言を呈されるほどだったのだが――。
「とっくに成人しましたからね。いつまでも子供じゃないってことです」
わざとつれなくそう言ってから、私はちらりと彼を見上げた。頬をかきながら困ったように笑う顔に、ぎゅっと胸が締め付けられる。
「残念。それじゃもう僕のこと、リクくんって呼んでくれないの?」
「そっ……それは」
思わず言葉に躓いた。
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