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本人に全くその気は無いのだろうが、細められた瞳から男の色気がダダ漏れている。
「……いえ別に」
なかなか離れようとしないキレイな顔から逃れようと、思いっきり仰け反る私の手にはビールジョッキ。
柳澤陸斗を夜の街に誘うというミッションの第一段階は、彼から食事に誘われるという思わぬ形でクリアしていた。
「ここ僕の行きつけなんだけど、夕飯に居酒屋なんておっさんくさかったかな」
おっさんくさいなんて、そのカテゴリから1億光年くらい離れた人が言っていい言葉じゃない。本物のおっさんに聞かれたらったら、タコ殴りにあうんじゃないかな……なんて、余計な心配をしつつビールをゴクリ。
「そんなことないですよ。でも、柳澤さんとこういう場所に来るの新鮮だなって」
「あー、一緒にお酒飲むのは初めてかもね? でも、まあちゃんもオトナになったことだし、ちょっとくらいいいでしょ」
「そうですね、ちょっとくらいなら」
と、またビールをゴクリ。
「まあちゃん、希望は総合職だっけ」
「ええまぁ。でもI&Iみたいな大手に入れるとは思ってませんけど」
「なんでさ。さっきの質問内容、よく調べてあったし、切り口もなかなか面白かったよ」
「そうですか?」
営業部でバリバリ働いているリクくんにそう言われると、お世辞でもちょっと嬉しくなってしまう。下調べを頑張ったかいがあったってものだ。
「うん。だからさ、ダメもとなんかじゃなくて、ちゃんと目指してみなよ。まあちゃんが後輩になってくれたら、僕も嬉しい」
そして私が後輩になったあかつきには、キレイな先輩OLにモテまくるリクくんを見るはめになるんでしょ? リクくんの気持ちはありがたいけど……そんなの、真っ平御免だ。
ジョッキを呷る私の前に、リクくんが小皿をついと差し出した。
「飲んでばっかりだと胃に悪いよ。ここ、何食べても美味しいからどんどん食べなよ」
「それじゃ、お言葉に甘えていただきます……んんっ!? なにこれすごく美味しい!!」
「それ、パクチーと生姜の天ぷら。僕のイチオシ」
「え、これパクチー!? パクチーの天ぷらなんて初めて食べたけど、生姜とあうー! おいしー!! びっくりした、こんな組み合わせもあるんだね」
あんまり美味しくて、ついうっかり、いつもの調子で話しかけてからハッとする。
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