桜舞う季節。彼女がついた嘘。

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 七月──。  いまだ収まりを見せない、新型感染症ウィルスの影響で開催が危ぶまれていた夏の甲子園大会の実況を聞きながら、俺は小説の執筆を再開していた。──してはいたが、いまひとつ筆は走らない。  絵画の筆はあんなに走ったのに、と心中で自嘲しながら、すっかり緑に衣を変えた桜並木を見上げて散歩した。  この頃にもなると、玲と連絡を取り合う回数もめっきり減っていた。  まあ、それもしょうがないことなのだが。三十路手前の男と希望に胸を膨らませる十九歳。  そもそもの話、接点がある方が稀有なのだ。  たまにするやり取りで、彼女の受験勉強が順調なことだけは把握できていた。感心感心。俺と違って。 *
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