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九月。
なんとか締め切りに間に合わせ応募した公募の結果を待ちながら、自堕落な日々を過ごしていた。
いや、あんまり前と変わっていないか。
自分がなんとか社会の歯車になれていると自覚できるのは、週に何度かある派遣のアルバイト業務をこなしている時くらいだった。
何時もと同じ。ベッドの上に寝転びぼんやりと天井の染みを数えていたその時、不意にスマホが着信音を奏でた。
これは、チャットアプリの着信ではないな。
そう思いながら画面を確認すると、メールボックスに入っていたのは『受賞』を知らせる文字。
ただし、小説ではなく水彩画コンクールの方の。
「マジか!?」
俺は跳ね起きると、早速玲に受賞を報告するメッセージを打った。返信は、即座にあった。
【聞いてくれ! 水彩画コンクールの結果が今届いたんだが、佳作を受賞した!】
【本当ですかやりましたね! 私は連絡が無いのでダメだったようですが、自分のことのように嬉しいです。おめでとうございます!】
運気が向いてきたかもしれない。お祝いのメッセージが表示されたスマホを抱いて、俺はベッドの上に倒れこんだ。
最高だ──。
*
けれどまあ、人生というものは、そんなに上手いことばかり続かないわけで。
七月に出していた公募は結局一次選考で落選。思いつきから、以前送った作品に手直しをして、また別の公募に送ってみることにした。
元々自信のある作品だったから、きっとなんとかなるはず。そんな感じの、淡い期待を持って。
そのまま彼女とは疎遠になって、季節だけがめぐっていく。
十月末締め切りの公募に原稿を送り、木々が色づく秋がきた。そして、手足凍える冬が。
年末ころウェブサイトで確認すると、一次選考は通過していた。来年はいい年になりそうだ。そう思いながらもいつの間にか公募の事も忘れ、気がつけばもう二月。
そんな折、そう言えばそろそろ、とウェブサイトを確認すると、二次選考通過者の中に自分の名前があった。
そこまで期待していなかっただけに驚いた。喜び勇んで玲にメッセージを送った。──聞いてくれ、二年振りに最終選考に残ったんだ!
だが、彼女からの既読はつかなかった。
その日の夜になっても。翌日になっても。そのことを俺は、辛いとも悲しいとも特に感じなかった。
考えてもみろ。俺たちは十も歳が離れているんだ。彼女が今よりもっと大人になればと、そんな淡い期待がなかったわけでもない。だが、彼女と疎遠になるのはきっと必然だったのだ。曇っていた空から雨が降ってきた、とでもいうべきか。ついにこの日が来たか、という感覚しかなかった。
むしろ、今までこんなムサい男に付き合ってくれてありがとな。
そうして俺は、眠りについた。
窓の外では、しんしんと雪が降っていた。
進展があったのは、それから更に三日が過ぎたころ。
玲に送ったメッセージに突然既読がついて、返信まであったのだ。
天井の沁みを物憂げに数えていた俺は、慌ててスマホの画面を表示させた。次の瞬間息を呑んだ。
【あなたは、玲のお友達か何かですか?】
嫌な予感が──していた。
*
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